新型スカイラインのステアリング開発担当に色々聞いてみた

ハイブリッドモデルに加え、ダイムラーとのアライアンスによりダイムラー製2リッター4気筒直噴ダウンサイジングターボを搭載したグレード 200GT-tが6月から発売された新型スカイライン。

今回200GT-tを試乗、開発担当者に最新のステアリング技術についてお話を伺った。

新型スカイラインのステアリング開発担当

世界初となるダイレクトアダプティブステアリング(DAS)はハンドルとステアリングを機構的に完全に分離、最新制御技術で自然なハンドリングと不要な反力を受けず疲れない走行を両立している。一方コンベンショナルな方式ではあるが、電動油圧式パワーステアリング(EPS)も熟成が進んでいる。

ハイブリッドモデルにDASは標準設定、2LターボモデルはEPSが標準で今後DASがオプション設定される予定。

・加藤 友一(写真左):ステアリングシステム開発担当。電動油圧式パワステ、DASアクチュエータ・ギア開発を担当

・木村 健(写真右):ダイレクトアダプティブステアリング(DAS)担当。システム性能、反力制御、転舵制御、ステアリング特性、アクティブレーンコントロール開発。

新型スカイライン

世界初ダイレクトアダプティブステアリング

ーー(インタビュアー) ステアリング機構とハンドルを完全に分離したDASは世界初の技術です。これを他社にさきがけて世の中に出すキッカケ、意気込みはどういったものでしょうか?

木村 ステアリング特性技術は他社もそうですが、どんどん進歩しており特に電動パワーステアリング(EPS)が最近進歩しています。日産では古くは後輪操舵のHICASをやっていますし、先代モデルでは4輪アクティブステアリングをやっていまして、DASを他社に先んじて出したのは「今までにない特性を実現したい」というのが大きな動機です。

ーー DASはいつから開発していたのでしょうか。

木村 DASは約10年前から研究開発をやっていたのですが、最近になってエレクトロニクス、制御の技術が追いついてきたので、今回このタイミングでようやく実現しました。

ーー 意外と長い歴史があるのですね。DASにすると何がいいのでしょうか。

木村 トレードオフの問題ですが、ハンドリングをダイレクトにしたいとすると、どうしても路面からの外乱をステアリングに伝えやすくなります。DASはハンドルとステアリング機構を完全に切り離し、センサー、モーターでコントロールしているので、ダイレクトでクイックなハンドリングと轍にハンドルをとられない特性を同時に実現できました。

ーー ハンドルがセンサーによる電気式というとグランツーリスモといったレースゲーム的なイメージを持ちますが、それに近い感覚でしょうか。

木村 我々は運転をゲームにしようとしているわけではありません(笑) 例えば高速道路を運転しているときに微修正しますが、これはドライバーがしたくてしているわけではなく、やらなくて済むならそれに越したことはありません。一方ステアリングの反応が遅くて一杯切るのはいや、クイックにしたいという欲求もあります。その両方の特性を狙って作ることができるのが、DASです。

ーー DASはプログラミングの技術、味付けが重要というわけですね。

木村 そうです、その味付けを何年もやってきています。

ーー 従来型ステアリング機構の特性、フィーリングとDASのプログラミング制御で作った特性、フィーリングはどう違いますか?

木村 DASはどういうふうにでも作れるので、まず最初はなるべく従来型ステアリング通りに動くように作ります。ただまったく同一だと意味がないので、嫌なところ、余計な外乱はカットするように仕上げます。

ーー 古いタイプのドライバーは従来型ステアリングの手応え感を非常に気にしますが。

木村 特にスポーティモデルはハンドルを切る時が重たく、反力があるので切る瞬間の手応えを重視して作りました。

ーー つまりDASでは自然なフィールを実現し、嫌な部分をカットして運転しやすい、疲れないというメリットがあるのですね。アクティブレーンコントロールはいかがでしょうか。

木村 アクティブレーンコントロールは将来的に自動運転技術につながる技術で、まだドライバーの代行運転をするものではありませんが、ドライバーが運転しやすくなるにはと考えて作ったものです。高速道路などで自然にレーンをトレースするように微修正しますが、ドライバーがハンドルを切ったときは邪魔しません。

ーー あくまでもレーンをキープするサポートで、ドライバーの操作を優先するのですね。

木村 はい。DASはハンドルの重さの制御、切れ角の制御を独立してできますのでステアリング角度だけを修正し、針路を直します。

ーー 修正時のステアリング切れ角は何度でしょう?

木村 ほんの0.1度から0.2度くらいです。

ーー HICAS(後輪操舵)はもっとありませんでしたか?

加藤 HICASは最大1度です。普通の機構だとハンドルが動いて気付きますが、DASは高速道路をまっすぐ走っているときにレーンから車がずれようとするのを自動で修正し、真っ直ぐ走ることができます。実は高速道路をまっすぐ走っているときに微修正する角度はほんの少しなんですね。

ーー それが0.1度くらいしかない領域で、そこを制御してくれるんですね。

加藤 例えば横を大型トラックが追い越して行った時風圧で針路が乱れますが、その影響をまったく受けません。だからドライバーは疲れにくいのです。

ーー 知らない間にDASが自動的に修正してくれるのですね。

加藤 我々の間で「よい操舵感はなに?」とよく議論するのですが、結論としては「疲れない、修正操舵が少ないもの」がそれです。

ハンドルを切った時、切った角度に対して思ったとおりに車が動かないとドライバーは修正してしまいますが、悪い操舵のものは狙ったところに車がいかないから、ずっと修正しつづけなければならなくなってしまうんです。そうすると当然疲れますよね。

車は常に路面の角度、轍やトラックの風圧で針路がずれますが、安心してレーンをキープして気楽にまっすぐ走る、長距離走っても疲れない、そういう車は好評なので、そっちに近づけています。

ーー DASの制御はフロントのみですか?

加藤 リアはコンベンショナルなサスペンションで、今回HICAS(後輪操舵)はついていません。

F1ドライバー、ベッテルが開発に参加

ーー ところでF1ドライバー、セバスチャン・ベッテルが車両開発に加わっていると聞きました。

木村 ベッテルには開発初期の頃に栃木テストコースで乗ってもらい、フィードバックをもらいました。割と最初(ハンドルを)軽めに作っていたのですが、「重くした方がいい、中立の微妙な動きだしがよくない」など指摘されましたので直しました。ベッテルだけではなく、セバスチャン・ブエミにもニュルブルクリンクで乗ってもらっています。

ーー ニュルブルクリングでですか!

加藤 実験部では筑波サーキットも走っているテストしており、世界中どこでも走って足腰を鍛えています。

ーー ベッテルのDASへの評価はどうでしたか?

木村 色々なイベントでデモ走行してもらい、お墨付きをもらえていると思います。例えば車の後ろにインクを出るようにして、ドリフトさせながらサインを描く、なんてこともやってもらいましたが、それくらいコントロールできるものとなっています。

autonomouscar

自動運転技術への応用

ーー 昨年リーフをベースとした自動運転自動車に試乗したことがあるのですが、あれはコンベンショナルなステアリングのためにハンドルが勝手にぐるぐるまわって落ち着きませんでした。DASであればそういうことが起きませんね。

木村 DASであればハンドルはそのままで、タイヤだけ切ろうと思えば可能です。例えば緊急回避時にハンドルが急激に回ると手がはじかれてかえって危険ですが、DASであればタイヤだけ操作できます。もしその時ドライバーがハンドルを切ったときにどうするか、機械の制御と人間の制御をどうブレンドするか、DASであれば自由にきめられますので、DASは自動運転のときにさらに威力を発揮すると考えています。

コンベンショナルなステアリング技術の熟成

ーー 次に直噴2Lターボモデルに使われている、電動油圧制御パワーステアリング(EPS)についてお聞きしたいです。

加藤 まず歴史を考えるともともとパワステはありませんでしたから、ラック&ピニオンで低速はとても重いものでした。それを楽にするために油圧式パワステが生まれています。日産はずっと油圧式で熟成して、特にインフィニティでは高級車らしい操舵感とは何か、考えて技術を磨いています。最近は燃費が重要視され、EPS、電動パワーステアリングが出てきました。EPSはエンジンから動力をもらわないので、まずは小さな車でコラム式EPSに切り替えています。

ーー EPSにも色々な方式があるのですね。

加藤 他社もそうですが、大きい車にどう新しいのを作っていくのか、2010年頃から悩んでいます。様々な形式、直動タイプ、ラック同軸タイプなどあり、フーガHVで油圧をつかったEPSを出しました。重い車、高級車では小型車に使っているコラムEPSではどうしてもチープ感がゲームセンター的でオモチャちっくになってしまいますので。

インフィニティのような高級ブランドに相応しいものを出すにはどうしたらいいか考えた結果、これまでの油圧式の操舵感を出すのがいいだろうと、エンジンでポンプを回してたのを切り離し、モーター制御でポンプを回す電動ポンプを使った電動油圧式としています。

この操舵感の味付けをどうやるかが課題です。新たに制御を加えていきながら、油圧式で培ってきた味を電動で再現できるように、今回の車では実現しています。ですので操舵感はこれまでに負けない、ノウハウの蓄積からいいものが提案できています。

また良い操舵感を実現するだけではなく、幅広い操舵感を作るためにSPORT/STANDARDの切り替えができ、付加価値を高めています。同時にDASに比べて価格も抑えられます。

ーー EPSは枯れた技術ではなく、まだまだ成長余地、発展途上の技術なのですね。

加藤 今回DASを出しましたが、他社はEPSの磨きをかけています。日産も経験を積んでいいEPSを出して行きたいですね、燃費よくして、操舵感をよくしてと。

ーー 燃費への寄与率はいかがでしょう。結構効きますか?

加藤 寄与率は 1から1.5%で、結構効きます。通常油圧式の場合、ポンプは常に最大容量を流しまくっていて、それはハンドルを急にきったときにでも足りなくならないようにスタンバイしているためですが、その動力をずっと食っています。エンジニアからするとエンジンでせっかくパワー、燃費を改善しているのにエアコンのコンプレッサーとパワステが動力を食いやがって、といわれていました(笑)

EPS化で余計な負荷をなくして、燃費性能、動力性能もアップして、操舵感もよくなっています。

ーー その分、バッテリーの負荷は高まっていますね。

加藤 これは電動化では避けて通れないもので、きちんと設計しないと厳しいです。そのためオルタネーター、バッテリーと電装系のバランスがとれるように、電動化しています。バッテリーがでかく重くなったら意味がありません。

選べる2つのステアリングシステム

ーー DASとEPS。開発者としてはどんな人にどっちを乗ってほしいでしょうか?

木村 EPSは磨き上げてきた油圧式のフィーリングを損なわずに電動化できており、従来の延長線上にあります。例えば旦那さんが走りが好き、でも奥さんもお買いものに乗ってとなると、クイックで手ごたえのあるモードと、軽くて操作しやすいモードを切り替えすればよいです。

加藤 実はこれまで日産車のステアリングは結構女性に不評で、というのも据え切りが重いから。女性からするともっと軽くできないの、と言われ続けてきました。これまでの油圧式では操舵感とのバランスの関係で、まだ軽くし足りてなかったのですが、今回システムかえることで女性も乗りやすい、軽いものにできたのが努力ポイントです。

木村 DASはマニアックな人にしては、路面の手ごたえを感じながら操っている感覚がほしい人は違和感を感じちゃうかも知れません。そういう人にもコンベンショナルなEPSの方がマッチしているはずです。

木村 荒れた道でとられるハンドルを修正するのがいいんだ、という人もいますし(笑)

ーー 結局好みの問題ですね。

加藤 EPSは元々があるので設計する方はやりやすいですね。逆にDASはゼロから乗り味を作りあげる必要があり、作るのが大変です。色々な方の意見をきいて培ってきた中で作った操舵感ですが、好みによっては合わないなど、まだまだ改善の余地があります。次はもっといいものを出すようにしますし、出来る可能性を秘めてます。

ーー DASはアメリカのフリーウェイにはピッタリですね。

木村 DASの開発のために何万キロも実際の道を走っています。私もアメリカで3日間千何百マイル走りましたが、アクティブレーンコントロールを使ったので、とても楽でした(笑)

ーー オートクルーズとセットでアクティブレーンコントロールを使えば、アメリカのネバダなんてほとんど操作いりませんからね。まさに未来技術です。

infiniti

まとめ

日産のステアリング技術はR31型スカイラインで初採用された後輪操舵のHICASが有名である。

HICASはHICAS-II、Super-HICAS、4輪アクティブステアリング(4WAS)へと進化し、今回はついに機構的に完全にハンドルとステアリングが切り離されたダイレクトアダプティブステアリングへ昇華した。プログラムによってハンドリング性能、乗り味をすべて決めることができる一方で、ゼロから作りあげなければならない苦労は並大抵ではなかったに違いない。

F1ドライバーのベッテルのフィードバックが反映されたDAS、「ベッテルはSPORTモードではなくSTANDARDモードを選んだ」と以前、開発主管の長谷川氏が語ったように、STANDARDモードが自然なフィーリングである。DASの特徴を生かしてあえてスポーツ性を過剰演出したのがSPORTモード。

一方の電動油圧式パワーステアリング(EPS)は自然なフィールが特徴で、走りにこだわる旦那様用のSPORTモードとお買いもの中心の奥様方用にと軽く仕上げたSTANDARDモードが選べるようになっている。

パワートレインだけではなく、ステアリングシステムも幅広いユーザーに選んでもらえるように用意されており、スカイラインの走りに対するこだわり、懐の深さを感じた。