酷暑に涼を!次世代のエコを見据える「エクセルギー」がイマ熱い

酷暑の夏が続く。特に東京の夏はヒートアイランド現象も加わって、ここ100年で3度以上も平均気温が上がっている。この暑さで、7月に熱中症で病院に搬送された人は2万3千人を上回っているという。

ところで、この熱中症、屋内で発生する率が非常に高いことをご存じだろうか。実は約4割が屋内で起きている(東京消防庁調べ)。特に寝室やリビングなど普通にいつもいる場所での発生が多い。

これには、室温や湿度以外にある温熱環境が関与している。それは、壁や天井、床といった人を囲む周壁の面の温度の影響である。

たとえば、集合住宅の最上階などでは、真夏の太陽に照らされたコンクリートが熱をため込んで、夜になって外気温が下がっても天井や壁の温度が下がらない。このことが熱中症を引き起こす隠れた原因になっているのである。室温より人を囲む面の温度が高いと身体への負担が大きい。このことは、東京都市大学の宿谷昌則氏の「人体のエクセルギー消費」の研究でも明らかになっている。

そして、この原理を建築に活かしているのが、建築家黒岩哲彦氏が開発した「エクセルギーハウス」である。

夏は、年間の平均温度が25度の雨水と風を使ってクールな温熱環境を作り出す。雨水を床下のタンク(3~6t)に溜めることで、その冷放射で床壁天井の温度が25度に近づいていく。また300wの太陽電池により、雨水の一部を床下の雨水タンクから天井裏に汲み上げ、グラスファイバーを湿らせ、そこに風を通すことによって気化熱を発生させる。この雨水による冷放射と、蒸発冷却するエクセルギーによって室内では快適性が得られるのである。

エクセルギーハウス内部天井

屋根には50度くらいまでの温水を効率良く作るオリジナルの太陽熱温水器がある。

エクセルギーハウス集熱パネル

床下には雨水をためるウォーターベッドのようなタンクが潜む。

エクセルギーハウス床下雨水タンク

エクセルギーハウス雨水冷房の仕組み(*イラスト提供:黒岩哲彦氏)。

エクセルギーハウス夏の仕組み

「木は雨水を地中から吸って、葉の蒸散作用をもたらす。エクセルギーハウスはこの木の営みに学んで、建物に活かしている」と黒岩氏は説明する。

一方、冬はこの雨水を屋根の上に設置された太陽熱温水器で温め、床下からの放射熱によって床・壁・天井の面温度を高める。天気の悪い日はペレットストーブで雨水を加温する。太陽の光を蓄えた木をバッテリーとして使うのである。

このエクセルギーハウスの快適さは、体感しないとわからない。夏は木陰にいるような、冬は暖かい羽毛に包まれているような、そんな優しい快適さなのである。

聞きなれない「エクセルギー」とは?

エクセルギー(exergy)とは物理用語で、熱や仕事にかかわる現象や変化の状態を表す。一般的には「有効エネルギー」と訳されるが、黒岩氏はエクセルギーを「拡がり散りを引き起こす力」と表現する。

雨水や太陽も冷たさ、暖かさといった冷エクセルギーや温エクセルギーを拡散している。それをうまく集めたり、散らかしたりすることで快適な温熱環境を作り出しているのである。今まで大きなプラントなどで、エクセルギーの考え方を取り入れている例は多いが、身近なエクセルギーを建築に、暮らしに活かそうというのは初めての試みだろう。

人間以外の生き物は車も飛行機も使わず、隣にあるエクセルギーを活用し、それぞれの営みを行っている。私たちも遠くの外国で掘り出された化石燃料を使うのではなく、隣にあるエクセルギーをうまく使うことによってその営みを展開できるのではないかと考えたことが原点だと黒岩氏は話す。

そして実際に太陽や雨水、植物などの拡散する力を使うことで、一般的なエネルギーを過剰に使わない快適な住まいが実現した。

25度の雨水は、35度を超える猛暑の日には、大きなエクセルギーをもつ。そういった変化する周辺環境との関係から考えるのもまたエクセルギーの特徴である。

エネルギーだけでは解決しない問題を、エクセルギーの視点で見つめていくと、さまざまな解が見えてくる。次回はそのあたりを掘り下げたい。