「究極のエコカー」開発の裏側とは?トヨタFCV開発者インタビューvol.1

先日トヨタは燃料電池自動車、FCV(Fuel Cell Vehicle)を2014年度内に発売することを発表した。

FCVは水素を燃料とし、燃料電池と呼ばれるシステムで空気中の酸素と反応させ電気を作り、モーターを駆動することで走行する自動車で、排出するものは水のみというクリーンさが売り。今回FCVの開発責任者、田中義和氏にFCVの開発や今後の水素社会の実現に向けてのお話を伺った。

・お話を伺った方:トヨタ自動車株式会社 製品企画本部 ZF 主査 田中義和氏

トヨタ 田中CE FCV

トヨタFCVの歴史

ーー(インタビュアー) このたびトヨタがFCVを14年度内に発売すると発表しましたが、それに至るまでの経緯、開発の歴史についてお聞かせ下さい。

トヨタは1992年、つまり20年以上前から燃料電池自動車(FCV)の開発に取り組んでいます。1997年には市販ハイブリッド車1号となるプリウスを出していますが、FCVの実際の開発はその前からやっていて、電動車両など次世代車については先行開発として色々な形でやっています。というのも技術はひとつに絞れないからです。

私たちは「適時・適地・適車」という言い方をしますが、地域や時代に合わせて適切な自動車をご提供するというのがトヨタのスタンスです。ですので、燃料電池自動車も1992年というかなり早い時期から取り組みはじめたわけです。

ーー 田中さんはFCVにいつから、どのようにかかわってきていますか?

以前はPHVの開発、市販車「プリウスPHV」に携わっており、無事に発売を迎えた3年前にFCVの開発担当へと変わりました。このFCVはコンセプト、デザインもふくめて最初から私が携わらせていただいています。

ーー FCVの開発は大変だったのではないでしょうか。

実はFCVで使っている燃料電池という技術はシンプルで、家庭用燃料電池も市販されています。家庭用燃料電池というのは家庭用の発電システムで、ロッカーサイズくらいの大きさ、出力は約800Wで安定した電力を供給するタイプです。

家庭用燃料電池ですと出力の上げ下げをしないので、そこまで難しい技術ではないのです。電気分解の逆をやっているということなので。

ただ車に搭載しようとなると、サイズを小さくしてなおかつ、100kW(キロワット)以上のパワーを出す必要があります。

ーー キロワット? 800Wと比較すると100倍以上ですね。

そうです。高出力な上、出力は上げたり下げたりしなきゃいけない。これを実現するには技術的に加工技術など色々なレベルをあげていかないと成立しません。

ーー 家庭用のものと共通するものはあるけど、実装技術は異なるということですか?

異なります。より効率よく反応させること、出力の仕方もレスポンスよく出す、コンパクトにハイパワーにするための技術が必要です。

ーー それは燃料電池のセルスタックの中の話ということでしょうか。

セルスタックの中を酸素、水素が通るのですが、コンパクトでありながら反応面積を増やすために表面積をかせぐ一方、高い加工技術でそれぞれの流路を確保しなければなりません。また触媒、反応膜を活性化させていかなきゃいけないので、優れた機械加工、材料技術が求められます。

ーー これまでもFCVを開発し、世に送り出していますね。

まず1996年、大阪・御堂筋を燃料電池と水素吸蔵合金タンクを搭載したRAV 4EVでパレードしました。この時はまだゆっくりと走るくらいのものです。

その後2002年に日米でリース車を開始、2005年に日本で型式認定をとりました。2008年には航続距離・氷点下始動性を大幅向上させた FCHV-adv(アドバンスド)をリリースしました。これまでの長い実証実験のノウハウを、最終的に最新FCVにフィードバックし、現在市販に向けて最後の仕上げを行っています。

FCVのデザイン

ーー 完成の粋に達したFCV、これまでのリリースしたものとの大きな違いはなんでしょうか?

今まではSUVベースのクルマで、言葉は不適切かも知れませんがある意味「燃料電池になったこと」だけが売りでした。燃料電池自動車はモーター走行なので、力強い、気持ちいい走りができますが、これまでコストが相当高かったです。それを今回量産化することで結果として価格を下げることに繋がっています。

また、改めて燃料電池であることのメリットを生かし、本来クルマがもつクルマの魅力、デザイン、乗り味、乗り心地、ハンドリング、fun to driveを新しい形で実現することで、商品性を付加しています。

TOYOTA FCV

ーー これまでの燃料電池自動車はぱっと見、サイズの大きいものばかりでしたね。しかし今回はセダンで流麗なデザイン、車高も低く、全長全幅はLサイズセダンくらいでしょうか?

Lサイズまではいきません、Dセグメントの大きさです。ちなみに東京モーターショーモデルのデータは全長 4,870mmで、市販車では若干変更されますが、ほぼ同じと考えてよいです。

東京モーターショーモデルはデザインコンセプトのクルマなので、ドアがあかず、装飾が多少派手でキラキラしたものとなっていますが、最終的な市販車とテイストは同じです。

TOYOTA FCV PROTOTYPE TMS2013

あそこまでコンセプトカーと市販モデルと似ているのは過去トヨタでは例がありません。あの特徴あるデザインがコンセプトなので、そのまま出すことにしました。

ーー ということで、市販車の全長は約4.8mで、全高も高くないと。

いや結構高い、1,500mmくらいあります。

ーー 低く見えるのは、デザインにまとまり感があってスタイリッシュに見えるためですね。

背は高いし、全幅は1,810mmなのでそれなりにデカいんですが、スタイリッシュという意見をかなり頂戴しています。

ーー アンベールされる前の形、シルエットがかっこよかったですね。スポーツクーペ的なイメージです。

TOYOTA FCV

FCVは決してスポーツカーではありませんが、ハンドリングは良く、どちらかと言うと回頭性が高い方です。

これは燃料電池のセルスタックを前席下、高圧水素タンクを後席下とトランクとの間に配置したため全体的に重心が低く、FFとしてはリアよりの重量配分となりFFミッドシップに近くなっているためです。

特にこだわっているのは車体剛性で、相当高くしています。燃料電池を低く搭載して、とにかくクルマとしての完成度を高くしたかった、モーターで走る長所を強調したいと思い、最初から意識して取り組んでいます。

その結果、環境車ですがクルマとして操る面白みがあって、乗り心地、静粛性も高い、アピールできるクルマに仕上がっています。

ーー シャーシはFCV専用ですか?

アンダーフロアは完全に専用設計で、サスペンションは既存の製品をうまく流用しています。

ーー エンジンルームの中身や衝突安全性についてはどうでしょうか。

エンジンルーム設計は完全にオリジナルで、衝突安全性は日本だけではなく当然アメリカの基準も含めてすべてクリアしています。いわゆる通常の量産車として同等のことをやっており、さらに水素を積んでいるので、その安全性も確認しています。

ーー ガソリン車、HVとは安全性の確保が随分異なると思いますが、今回水素で苦労された部分はどんなところでしょう?

HVでも高圧電気、感電といった初めてのことがあり、安全基準を作りながらやりました。今回は水素漏れですね、あらたな基準を作りながらクリアしていて、苦労したというより当然やるべきことだと考えて取り組みました。

(次回、FCV開発編へ続く)