「FCV開発の苦労と困難」トヨタFCV開発者インタビューvol.2

前回:「究極のエコカー」開発の裏側とは?トヨタFCV開発者インタビューvol.1

前回は、FCV開発責任者、田中氏にFCVの歴史・デザインについてお話を伺った。今回はさらに詳しくコンセプト、デザインから開発の苦労までインタビューしてみた。

TOYOTA FCV

FCVの開発

ーー(インタビュアー) 田中さんはFCVの開発責任者ですが、どういったところから始めたのでしょうか。

まずどれくらいの剛性を確保するのか、クルマの方向性を決めるところからやっています。

燃料電池自動車なので環境技術は当たり前で、それ以外にクルマとしてどうあるべきかという、トヨタの車作りの技術を惜しみなく投入した、いわば「フルスイング」のクルマです。お客様の期待を越えるものにしたいし、これは燃料電池を搭載しただけのクルマにしたくないという思いからです。

確かに「燃料電池」というのはFCVの大事なアイデンティティ、シンボルなんですが、環境車だからといって乗り味、乗り心地、走りを犠牲にしたくないものですから、静粛性など持てる技術を投入して皆様に「いいクルマだなあ」と言われるものを目指しています。

ーー つまり単に燃料電池を載せただけの電気自動車ではない、ということですね。

ちょっとカッコつけすぎなのですが、燃料電池自動車のコンセプト「H2 pioneer for the next century」というのがあります。

これまでの100年のクルマの時代、T型フォードで多くの人がクルマに乗れるようになったことを含めて内燃機関が引っ張ってきました。ここ最近はHVが引っ張っていますが、これも基本は内燃機関です。

長期的に見ると石油、化石燃料が枯渇、エネルギーの多様化が必要な局面になってきます。ではこれからの100年を引っ張るのは何かと考えたとき水素が有力なので、水素社会を牽引するような先駆者となるようなクルマが必要です。

ーー 化石燃料は短期的には比較的安定していますが、新興国への自動車普及や環境問題などこれからの100年を見据えると確かにシフトは急務ですね。

アーリーアダプターの方は燃料電池であるからという理由で買っていただけるかも知れませんが、広く一般の方々にはそれだけでは惹きつけられないと思っています。トヨタは環境技術は普及してこそ意味があると考えており、社会やインフラを引っ張ろうとするのであれば、クルマ自身を魅力的にしなければなりません。

東京モーターショー2013でFCVはプリウスを越えるイノベーションだ、と言いましたが、インフラを含めてどこまでこのクルマで牽引できるかがキーになります。

量産FCVをセダンボディにしたのもそうで、クルマのよさを訴求するとなると、まずクルマとしての楽しさ、走る、曲がる、止まるものにしたかったのです。世界ではSUVが人気ですが、お客様を選ばず操る楽しさを考えるとセダンボディが最適です。

TOYOTA FCV

ーー FCVのデザインはフロントバンパーの左右グリルが非常に大きなものになっているのが特徴ですが、この理由は。

一目で「水素で走る車」と分かるようにしたかったのです。

水素で走るクルマは水素タンクを搭載し、外から空気を大量にとりこんで冷却に使ったり、酸素を取り出して水素と反応させたりして電気を作ります。この空気を取り込むことをキーデザインと考え、サイドグリルを大胆に大きくしています。

特に導入初期はまだまだインフラが整っていないこともあり、実際に走るFCVを街中でよく見るようになるまでには時間がかかることでしょう。機能を表現するデザインにすることで、インフラのない地域のひとでも興味、憧れをもってもらい、インフラを作ってもらいたい、という期待もあります。

ーー 先進的ではあるけど、奇をてらっていないということですね。

自分たちのクルマ、身近なクルマとしてありたいので、先進的ではあるけど前衛的、奇妙奇天烈にはならないように気を使いました。

開発の苦労と困難

ーー 燃料電池のメリットはたくさんありますが、一方で開発は苦労されたのではないでしょうか。

開発の苦労といえば、技術面と体制面の両方あります。

技術面ではHVも新しいものだったけど、結構今までの自動車の枠組みで作れました。ところが今回は水素を使うことで、サービス体制の整備から法規、基準などまったく手探りの状態から新しいものを作る必要があったので、面白いけど、難しい部分が多かったです。

ーー 作るだけではなく、販売後の整備のことまで考えないといけませんものね。

燃料電池はこれまで経験したことのない化学反応を使う技術なので、やっていくうちに想像をこえたことが色々ありました。

例えばNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)や乗り心地をこだわってやろうとすると、内燃機関と構成が違うのでやりやすい部分もなくはないけど、新しいがゆえにあらたに決めていかなきゃいけない、トライする部分があります。

ーー 体制面はどうでしたか?

体制面でいえば僕は製品企画の部署で、技術部なんだけど全部とりまとめる立場です。デザインからコストにいたるまで責任があります。そのためマーケティング、営業とも議論しながら決めていきます。

特に水素なんて自動車会社が頑張っても、いつどのように普及していくか、インフラがどうなるかわかんないんです。ですが、泣きつくのではなく、しっかりと社内を説得、理解してもらって進めていくのが僕の大事な役目です。

ーー いいものだからやらせてください、と理解を求めて回りを巻き込んでいったわけですね。

こういうチャレンジをやっていくには、クルマをいいものにしてこれを本気でやっていこうという気持ちに社内を含めてしていかなきゃなりません。

困難が大きければ大きいほどいいクルマになるんです。途中段階でもめればもめるほど、みんなが結束して動いていきます。いろいろ大変で、インフラをどうするのか、こんな企画でいいのか、さまざまな意見がありますが、上手く社内関係部署を巻き込んでいいクルマにしていきました。

ーー 会社全体で、新しいクルマを作っていくチャレンジだったということですね。

新しい技術は前例がないから、自分たちで決めていかなきゃいけません。基準をひとつとってもそうで、今後の燃料電池自動車の基準を作っていくステップがいやというほどありました。

デザインについてもそうで、あのパッケージはデザイン的には、実はとっても難しいものなんですよ、今のトレンドじゃないですし。だから最初どうデザインすればいいのか分からない、という意見まであったくらいです。デザイナーと一緒に腕組みして、夜中に「どうする?」とやったりしたおかげでデザインは日を追うごとに良くなっていきました。

TOYOTA FCV

ーー その結果6月25日に年度内にFCVを発売すると発表されました。

水素という新しいエネルギーがどうなっていくのか、まだ誰も分かっていません。分からないところに10~20年かけてチャレンジしていくのですが、これってなかなかふんぎりはつかないじゃないですか、トヨタとしても。でもトヨタは意思決定した。ということはそれに値するものにしたいです。

ーー 次はユーザーが巻き込まれていく番ですね。

お客様にFCVのよさをしっかりと訴求する、というのが次のステップです。

(次回は水素の危険性と安全確保について、です)