トヨタの燃料電池車「MIRAI」、発表会レビュー続編

11月18日に正式発表されたトヨタ新型FCV「MIRAI」。

FUTURUSでは田中開発責任者へのインタビューを通してすでにトヨタの考える水素社会実現に向けての取り組みや、開発中のFCVの裏側に迫っている。が、今回は発表された量産型の「MIRAI」について、水素社会に関してさらに掘り下げてレビューをしていきたい。

トヨタMIRAI

記者発表会ダイジェスト動画

発表会ではLEDディスプレイと、ホログラムによる映像を多重的にみせており、MIRAIの先進性をプレゼンテーションでも示した格好だ。

次世代環境車開発

FCV、MIRAIの開発責任者、田中氏の前の担当はプリウスPHV。プリウスPHVを発売した後FCVの開発責任者となり、コンセプト立案からデザインに至るまで最初から担当している、いわばトヨタ次世代環境車開発のキーパーソンである(参考:「「究極のエコカー」開発の裏側とは?トヨタFCV開発者インタビューvol.1 」)。

この時まだ明らかにならなかった詳細スペックが今回明らかにされた。主要な数値からMIRAIの走りを予想する。

スペック

車両・重量・性能

車両重量 1,850kg
最小回転半径 5.7m
最高速度 175km/h

FCスタック

最高出力 114kW(155ps)
タンク容量122.4L
公称仕様圧力 70MPa

駆動用モーター

最高出力 113kW(154ps)
最大トルク 335Nm(34.2kgfm)

駆動用バッテリー

ニッケル水素
容量 6.5Ah

全長×全幅×全高 4,890×1,815×1,535(mm)
ホイールベース 2,780(mm)
乗車定員 4名

(参考:toyota.jp MIRAI | カタログ

まず目につくのが車両重量。1,850kgというのは3リッタークラスの高級セダンやミニバンと同等の数値であり、軽いとはいえない部類である。全長が約4.9mと5m近くであることや、全高が1,535mmといわゆる一般的な立体駐車場に入るサイズである 1,550mmに迫るし、全幅も1,815mmとそれなりの幅がある。このように数値をみていくと実際にはセダンというよりもエスティマクラスのミニバンをセダン型のデザインで小さく見せていると考えると実はさほど重いわけではない。

大型ボディで気になるのは小回り性能であるが、ホイールベースが2,780mmと長いことから最小回転半径5.7mということで狭い道での取り回しには注意が必要だ。

toyota fcv mirai

この重量に対し、駆動用モーター出力は馬力こそ154psと控えめであるがトルクは335Nmと3リッターエンジンと同等。トルクが低回転で出るモーターの特性を考えると、加速性能は十分あると考えられる。最高速度は175km/hで、日本の高速道路事情を考えると十分以上である。

水素充填3分、航続距離650km

電気自動車での最大の問題は充電時間の長さと航続距離の短さ。急速充電30分で約80%可能と謳う電気自動車があるが、肝心の航続距離が100kmから最大でも200kmと限られているために遠出や旅行といった用途には向かなかった。

各地に充電スポットが整備されているが、電気自動車の普及とともに「充電待ち」といった新しい問題が発生。充電が終わっても車両に戻らず移動しないことで充電待ちのユーザーに迷惑をかけ、ユーザー間でのトラブルに発展する事例も報告されはじめている。

toyota fcv mirai

この点水素であれば充填時間はフルタンクでも3分と、ガソリンに比べても高速である。さらに航続距離が650kmと電気自動車を遥かにしのぎ通常のガソリンエンジン車と同等以上、高速移動や山道といった燃費が急激に低下する環境下でも安心して走行が可能なのは特筆すべき点だ。

toyota fcv mirai

唯一の問題は水素ステーションの整備である。

水素ステーションは限られるが日常用途には利便性が高い

MIRAIの販売目標は2015年末までに400台、販売店も近隣に水素ステーションがあるディーラーとしている。水素ステーションは全国に約40箇所と限られており、爆発的に普及をさせるというよりも、スロースタートの見通しだ。すでにリース販売で実績を重ねているとはいえ、量産型乗用車ということで堅実な路線をとったという印象だ。

水素ステーションが限られることで、計画性のないぶらっとしたドライブには向かないのは電気自動車同様。しかし日常生活の移動用途であれば、1回の水素充填が3分で済むこと、航続距離が650kmと長いことからひと月に1,000km程度走行する一般的な使用であれば月に2回水素ステーションに立ち寄れば事足りる計算だ。この点は毎日充電しなければならない電気自動車とは大きな違いであり、利便性が高いと言えるだろう。

またトランクは大型スーツケースが複数収納可能で、ゴルフバッグも積載可能と思われる。電気自動車では不可能だった片道100kmオーバーのゴルフ場への往復も、このMIRAIなら可能だ。

政府、他社、業界の動向

トヨタ新型FCV「MIRAI」発表の前日、ホンダが新型FCV CONCEPTを発表、先週には岩谷産業が水素の販売価格を1,100円/kg(税別)に決定したと発表した。政府のロードマップによる2015年「ガソリン車の燃料代と同等以下」とした目標に応えた形だ。ロードマップでは2020年に「ハイブリッド車の燃料代と同等以下」の目標を掲げている。

このようにトヨタに限らず政府の後押しもあり自動車業界、エネルギー業界ともに水素社会実現に向けて具体的に動き出している(参考:Honda | 新型燃料電池自動車「Honda FCV CONCEPT」を世界初披露 ~外部給電器、スマート水素ステーションとの三位一体でCO2ゼロ社会を目指す~Iwatani「水素・燃料電池戦略ロードマップ」をとりまとめました(METI/経済産業省))。

こうした他社の動きに対しトヨタは歓迎するとしており、水素社会の実現は1社だけの努力だけでは達成できないと理解しているようだ。業界、社会全体、そしてユーザーを含めての理解と活動が今後の水素社会到来のキーとなる。

自然エネルギーと水素の役割分担

他社が推進しているEV普及計画は東日本大震災により原子力エネルギーの活用が見込めなくなり計画変更を余儀なくされている。もともと安い深夜電力で充電することを想定していたが、化石燃料による発電に頼っている現在のエネルギー情勢ではEVであっても排出ガスゼロは謳いにくい。風力や太陽光といった自然エネルギーの活用といっても、安定しない電力供給、貯蔵や運搬がしにくい電気は厄介である。

海に囲まれた島国日本において、海上での大規模風力発電といったことも検討されている。しかし自然エネルギーでは出力が安定せず、風が吹かなければ電力供給が少なくなるのはもちろん問題であるが、逆に強風で余剰になる場合もある。そんな時でも水を電気分解して水素を作れば、貯蔵・運搬することが可能だ。うまく役割分担ができることが期待されている。

また洋上で水素を生産可能な技術が開発されており、船で直接海上輸送できるのは島国日本にとってメリットが大きい(参考:「世界初!洋上で水素を生産する技術が開発される」)。

MIRAIは単なるエコカーなのか?

トヨタ社長、副社長をはじめ開発責任者が口を揃えていうのが、MIRAIを単なるエコカーにはしたくない、ということである。単なるエコカーとは燃費向上や環境負荷を下げることを絶対目標とし、それ以外を犠牲にし我慢を強いられることである。

実際これまでそういった「エコだけカー」が世の中にあったことの反省から、エコカーでも走りを諦めない、走る楽しさ、fun to driveを実現する努力をしている。それがトヨタのいう「もっといい車作り」であり、走りの質の向上である。

MIRAIでは低重心化と前後重量配分の最適化、高剛性ボディなどでFFらしからぬハンドリングを実現している。決してスポーツカーではなく、F1やレースカーで想起されやすい高らかな排気音は皆無であるが、静かで速く、操って楽しいものに仕上がっているという。これは実際に試乗して確かめたいところだ。

トヨタ 燃料電池車「MIRAI」

発売は12月15日、受注はすでに200台

来月12月15日の発売が決定、受注は官公庁をはじめ一般ユーザーを含めてすでに200台が確定しているという。しかし年間の生産台数が約400台ということを考えると、これから注文するというユーザーはかなりの納期待ちが発生しそうだ。

来年以降アメリカ、ヨーロッパと順次デリバリーを開始する予定で、動向をみて生産拡大を検討するとしているが品質優先のため当面品薄状態が続くことが予想される。そのため気になる人は早く注文した方がいいだろう。

補助金利用でリーズナブルな価格

価格は723万6,000円(税込)だが、補助金でリーズナブルな価格で購入可能(参考:「東京都、FCV導入促進環境を整備-14年11月補正予算案、購入補助に100万円」)。

特に東京都では国の補助金200万円に加えて都が100万円を補助する施策を打ち出しており、実質 420万円程度でMIRAIが購入となる。

未来を早く体験したい人にはMIRAIをぜひ試してもらいたいものだ。

トヨタ 燃料電池車「MIRAI」