「インドネシア剣士」武道館へ ・・・世界に普及する剣道

「インドネシア剣士」武道館へ ・・・世界に普及する剣道

5月29日から31日にかけて、日本武道館で剣道世界選手権大会が開催された。これは3年に一度の催しで、世界の剣道家にとってはオリンピックやワールドカップに等しい重みのある大会だ。

実は2015年の大会では、インドネシア代表チームが初めて参加した。剣道に限らず、武道や新興スポーツのイベントでは発展途上国からの選手出場が目立っている。

だがその裏側では、大変な苦労がある。選手がいかに厳しい練習をしているか、ではない。それどころか日頃の練習すらままならない環境が、彼らの悩みの種となっている。

 

インドネシアと日本武道

武道館・剣道1

インドネシアでも、日本由来の武道は普及しつつある。そもそもインドネシアという国は、格闘技に対する偏見が他国よりも薄い国だ。各地に伝統武道が存在する上に、この国は賭博を禁止している。タイのように“スタジアムの二階席が賭場と化している”という状況も、“肉体しか資本のない貧しい男ばかりがスラム街のジムに集まる”という現象も、昔はともかくとして今のジャカルタにはない。

日本のサブカルチャーが武道普及を後押ししているという点もある。アニメやゲームの影響で、織田信長や徳川家康といった日本の歴史人物は、インドネシアの若者の間に知れ渡っている。その流れで武士に憧れ、武道を志す者も多い。

剣道はそうした若者の受け皿になっている。幸いなことに、インドネシアには剣道の日本人高段者が多く存在する。日系企業の駐在員、特に重役ほど柔道や剣道でその名が知れているということが多い。そういう人物が現地の剣士に教えを施しているのである。従って指導陣は非常に優秀な人材が揃っている。

だが、それでも補い切れない深刻な問題が一つある。

 

剣士たちの苦労

インドネシアには剣道の道具を売る店はありません。道具の入手は、インターネットを使った個人輸入に頼っています

そう語るのは、日系企業駐在員の日高輝久氏。インドネシアでの指導経験も豊富な剣道家だ。

道具の値段は、一番いいものだと一式で数十万円ほど。さすがにそれは高嶺の花ですから、ほとんどの場合は初心者向けの低級品を買います。値段は日本製で2、3万円。中国製のものだとその半値です

それを踏まえて日高氏は、こう続ける。

インドネシアは、労働者の賃金が月2万円ほどの国です。そこからでる可処分所得でやりくりしなければなりません。竹刀も仲間でまとめ買いして輸送費を浮かすとか、とにかく安く済ませるためにいろいろなことをやっています

ここで付け加えておくべきことがある。インドネシアは今、自国通貨がドルに対して非常に安くなっているということだ。外国製品の実質的な値上がりが、剣士たちの背中にも容赦ない負荷をかけている。

だがしかし、剣道の道場には道具のストックがいくつもあるはずである。個人の所有が無理なら、道場で借りればいい。日本の道場でもそうしたことはよくある。

ところが日高氏は、

道場でも、道具はなかなか揃えられません

と、語る。

 

不足する道具

前述の通り、低グレードの道具は安い値段で買える。しかしそれと引き換えに、耐久性はやはり値段程度だ。

道場で道具を数多く揃えるとしたら、個々の品はどうしても廉価品を選ぶことになる。それらは剣士たちの猛稽古で、すぐにくたびれてしまう。真面目な若者が汗を流せば流すほど、徐々に稽古が困難な環境になってしまうのだ。

5年ほど前、日本から中古の防具を頂きました。多くはないながらもまとまった数が入ってきましたから、それをジャワ島各都市の道場へ配分したのです。ただその時に頂いた防具も、今では消耗しています

武道はカネがかかる。これは残念ながら、現実問題だ。

しかしそのような環境だからこそ、創意工夫が生まれる。日高氏によれば、剣士たちは練習用の着物を自作するということらしい。日本から一着だけ取り寄せ、解体して型を取る。そこから自前で量産するわけだが、この際に生地は厚いながらも通気性の良い物を選ぶ。熱帯の国に適した着物にするわけだ。

 

黒星の価値

武道館・剣道3このような困難をくぐり抜け、武道館出場を果たしたインドネシアの剣士たち。だが世界のレベルはやはり高い。今大会でも、白星より黒星が目立つ結果だった。

戦う以上、目指すのは勝利ただ一つだ。けれど古代ローマの剣闘試合と違うのは、現代武道や格闘技は敗北にも付加価値を見出だせるということだ。黒星は死を意味するわけではない。次に訪れる白星のため、明日への希望のためにその価値が発揮されるのだ。

明るい未来は、こうして生まれる。想定外の困難を経験したことのない名選手はいないように、インドネシアの剣士たちの苦労もいずれ必ず大輪の華を咲かせるだろう。

我々は、その瞬間を待ち望まずにはいられない。

 

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【参考・画像】

第16回世界剣道選手権大会