インドネシア・低価格スマホ戦争 「100ドル機種」とスマートシティ構想の関係

インドネシア・低価格スマホ戦争 「100ドル機種」とスマートシティ構想の関係

今や、誰しもがiPhoneをズボンのポケットに忍ばせている時代だ。それを利用して、我々は全世界の人々とつながることができる。中学生ですら、iPhoneの画面を親指でいじっているほどだ。

だがそれは、経済的に豊かな先進国の国民だからこそできることである。米ドル換算で何百ドルもするiPhoneなど、富裕層に属する市民しか触ることができない、というのがこの地球上の「常識」だ。現にApple社の新製品の販売順序も、常に経済先進国が優先となる。

しかしそうは言っても、新興国の市民もスマートフォンを持ちたい。いや、もはや時代が「人類みなスマホユーザー」を求めている。

そこで今回はインドネシアを例に、「新興国のスマホ事情」について考えてみよう。

 

BlackBerry平家物語

近年経済発展が目覚ましいと言われているインドネシアだが、それでも先進国の国民との所得格差はまだまだ大きい。ジャカルタ特別州の最低法定賃金は、ようやく200ドルを超えたばかりである。そのような国でApple製品を所有しているのは、所得を米ドルでもらっているアッパーミドルクラス以上の市民のみだ。

そもそもインドネシアのIT史の中で、iPhoneの存在感は案外薄い。代わりに同国の消費者を取り込んできたのはBlackBerryだ。3年前までのインドネシアのスマホ市場は、いつもBlackBerryが王座に君臨していた。

その最大の理由は、BlackBerryが提供するSNS『BlackBerry Messenger(以下BBM)』である。これはBlackBerryユーザーにのみ提供されていたサービスで、その使い勝手はLINEのそれに似ている。すなわち、特定のメンバーのみを集めたグループチャットに開発の力点を置いているということだ。関係のない第三者に閲覧されてはいけない情報をやり取りするビジネスマンにとって、BBMは長らく「バッグの中の必需品」だった。そしてそれは、仲間内の結束を何よりも大事にするインドネシア市民にとっても同じことだ。

インドネシア・低価格スマホ戦争 「100ドル機種」とスマートシティ構想の関係

ところが、そのBBMが他のOSへの互換を認めてしまった。AndroidやiOSでも、アプリをインストールすることによってBBMの利用ができるようになった。この瞬間、BlackBerry機種はその存在意義を失ってしまう。もともと「クラッシュが頻繁に起こる」というクレームがあった製品だ。そのシェアはたちまちのうちに縮小した。

BlackBerry弱体化によってできた穴を埋めたのは、案の定Android機種だった。互換性に優れたOSは、こういう激動期に強みを発揮する。インドネシアのスマホ市場は短期間のうちに様変わりし、同時に同国のIT情勢も新しい時代を迎えた。

 

歓迎されたAndroid

Android機種の台頭は、実はインドネシア政府にとっても朗報である。

その理由は、自国の携帯電話メーカーの成長を促すことができるからだ。OSの互換を完全にクローズしているiOSやBlackBerryは、言い換えれば「新興メーカーにとっての障害」である。だがOSのライセンスを気前良くばら撒いてくれるGoogleのような企業があれば、まったく無名のメーカーでも市場に乗り出すチャンスはある。

それと同時に、Android搭載機は結果的に機種の製造コストを自由に設定できるという効果もある。500ドル以上のハイエンド機から100ドル程度のローエンド機まで、Androidは市場のニーズに合わせることが可能だ。そしてインドネシアでは今、100ドル前後の価格のAndroid機が「戦争」を起こしているのだ。

インドネシア・低価格スマホ戦争 「100ドル機種」とスマートシティ構想の関係

100ドルといえば、日本円では1万2,000円を少し超える程度だ。そのクラスのスマホでまず求められるのは、「通信速度の快適さ」である。インドネシア人がスマホを持つ主な動機は、前述の通り「仲間内でのやり取りのため」だ。従って彼らは、BBMだけでなくFacebookやTwitter、インスタグラム、スナップチャットなど、あらゆるSNSを掛け持ちしているのが普通なのだ。逆に言えば、それさえ満足にできればあとの要素は二の次で構わない。

折しもインドネシアは、去年から4G回線移行へ舵を切っている。現在市場に新投入されている100ドルスマホは、例外なく4G対応機だ。インドネシアの場合、新回線普及の重責を担っているのはローエンド機なのだ。

そしてこの潮流に、一人の男が熱い視線を送っていた。

彼の名はバスキ・タンジュン・プルナマ。ジャカルタ州知事である。

 

州知事の公約と100ドルスマホ

「俺はジャカルタをスマートシティにしたいんだ。今までの不便で時代遅れなジャカルタとはオサラバだ」

バスキ・タンジュン・プルナマ、通称アホックは恐れを知らぬ物言いの人物である。どの国の議会にも必ず一人はいる「失言王」でもあるが、彼の場合は革新的な都市構想を掲げ市民から絶大な人気を得ている。

アホックのスマートシティ構想は、その呼び名に相応しくスマートフォンの使用を前提にしている。

一つ例を挙げよう。インドネシア市民はバイクタクシーを頻繁に利用するが、今年になって『Go-jek』という企業が業績を上げている。これは平たく言えば「バイクタクシー版Uber」である。スマホのアプリを使ってバイクタクシーを任意の場所に呼び出し、料金もアプリ内へチャージした度数から引き落とすという仕組みだ。

Uberには厳しいコメントをぶつけているアホックだが、Go-jekに関しては非常に好意的である。「近いうちに市内の路線バスと連携させる」と公言しているほどである。

もちろんアホックの公約実現は、4G回線対応の100ドルスマホがあってこそのものだ。

iPhoneに慣れた我々日本人から見れば、インドネシアのローエンド機はやはり低性能が否めない。だが肝心なのは、2億5000万のインドネシア人がスマートフォンという文明の利器を使いこなせるようになった近未来の光景である。そこにあるビジネスチャンスの大きさは計り知れない。

インドネシア・低価格スマホ戦争 「100ドル機種」とスマートシティ構想の関係

筆者がこの記事を書いている瞬間にも、同国のIT事情は常に移り変わっている。この分野の情勢は日進月歩どころか、秒進日歩と表現してもいいほど進化のスピードが激しい。

そう、インドネシアのスマホ戦争は「電撃戦」なのだ。

 

【参考】

Go-jek

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