インドネシア発「軍用射撃ロボ」を 大学生が開発

インドネシア発「軍用射撃ロボ」を 大学生が開発

アメリカのとある大学生が、拳銃を搭載できるドローンを開発したというニュースがある。これは日本でも盛んに報じられた。

アメリカという国は、特に旧南部連合の諸州は「生活に銃は欠かせない」と考えている。これはかつて独立戦争で、市民兵がイギリス軍と戦ったことに由来する。ごく普通の農民がアメリカ独立のために、マスケット銃を取って大英帝国の軍隊を追い散らしたのだ。その当時から、自らの銃に誇りを抱く市民が一定数存在する。

「だからって、攻撃用ドローンを自作する道理なんかないだろう」

その通りだ。実はそういうことを、全米ライフル協会の会員ですら口にしているほどである。

夢のテクノロジーが武装化してしまう。現代人は、こうしたジレンマと戦っている。そしてそれは、何もアメリカだけの話ではない。

インドネシア第2の都市、スラバヤ。この町にある8月17日大学の学生アシュマド・ザイヌディンは、インドネシア中の注目を集めたロボット製作者でもある。

だが注目を浴びた理由は、何と戦闘用の射撃ロボットを開発したからだというのだ。

 

狙撃用ロボ、スラバヤに現る

現地テレビ局メトロTVに、その詳細が書かれている。銃が架脚に取り付けられ、その架脚がアシュマドの操作するコントローラーと連動しているようだ。

「このロボットは、遠距離からの狙撃をより容易にします」

アシュマドはそう意気込む。彼はすでに空気銃によるテストを行ったそうで、照準はコントローラーと一体化させたスマートフォンを使うそうだ。ドローンと同じである。

製作費用600万ルピア(約5万4,000円)、期間4ヶ月は大学生にとっては貴重な「代償」だったはずだ。その成果を実社会に活かしたいと、アシュマドはTNI(Tentara Negara Indonesia インドネシア軍)へ向けた商品PRも企画しているという。

「このロボットは、軍での使用に向いています。我々はすぐにでも、軍用のロボットデザインに着手できます」

射撃ロボにかける彼の熱意は、半端ではないようだ。アシュマドは本気である。

だが、この「発明」に対するTNIのコメントは、今のところない。

 

軍からの需要はあるのか

筆者はごく短期間だったが、陸上自衛隊にいた。従って、このロボットが果たして軍での任務をこなせるかということについて多少ながら推測することができる。

結論から言えば、TNIはアシュマドに声をかけないだろうと筆者は考えている。

世間一般の人は、「狙撃手」というものについて誤解をしている。自分の今いる位置からから1ミリたりとも動かず、数百メートル先の敵兵をただただ射殺する。一大学生のアシュマドも含め、兵役経験のない人はそんなイメージを持っているはずだ。

それは違う。狙撃手の第一条件は射撃の腕ではなく、数十キログラムの装備を背負った状態で何日でも歩き続けられる脚力だ。第二次世界大戦の独ソ戦で活躍したソ連軍の狙撃手ワシーリー・ザイツェフは、男1人がやっと入れる幅の下水道管を何時間も這って進んだ。実際の戦場では、こうした機動力がまず求められる。もっとも、これは狙撃手でなくとも同じだ。ナポレオンはかつて、「我がフランス軍の勝利は、ひとえに兵士たちの脚がもたらした」と語っている。戦争では個々の脚力がモノを言うのだ。

だから、移動能力のない射殺ロボの需要など軍にはない。「だったらタイヤかキャタピラを付ければいい」という反論も無用だ。匍匐前進や急斜面を駆け登る動作など、人間にできてロボットできないことはまだまだたくさんある。そもそも、アシュマドのロボットに取り付けた狙撃銃がボルトアクション式のものだったら、一発撃ったら誰がボルトを聞けばいいのかというツッコミもできる。

600万ルピアの成果は、無駄になりそうだ。

 

新興国と最先端テクノロジー

だが、アシュマドのロボットは違った角度から「最先端テクノロジーの進化」を考えさせる、いい材料になった。

我々日本人は頭のどこかで「テクノロジーは先進国だけのもの」と考えている節がある。だが、現実には新興国の大学生がロボット開発に取り組んでいる。これからの時代、テクノロジーの発展には新興国の力が欠かせないという状況が訪れるのではないか。

例えばベトナムでは、若いプログラマーの育成のために国家が資金を投じている。国土が極端に細長い三日月型の国で、しかもすぐ隣に中国という巨大国家がある。中国に押しつぶされない産業育成を目指すとしたら、単純なモノづくり業種ではなくIT業界への進出にかけるのが確かに手っ取り早い。

スラバヤのアシュマドの場合、たまたま射殺ロボという「使えない」ものに自らの知能を傾けてしまった。だが、作業用ロボそのものの需要は官民問わず豊富に存在する。少なくとも、「ロボ開発に長けた若者がスラバヤにいる」ということをアピールできただけでもアシュマドにとっては大きな成果となり得るはずだ。

そんな彼の可能性に資金を投じる企業が、今後出現するかもしれない。

 

【参考】

メトロTV

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