すべての命を森に活かす。プロの狩猟家が進める「自然資源」の好循環

わなにかかったニホンジカ (写真:山崎伸康)

わなにかかったニホンジカ (写真:山崎伸康)

 

かつて日本の里山は、野生動物の住む山林と、人々が住む里の緩衝地帯として、さまざまな役割を担ってきた。それは適切に人が自然に手を入れることによって、山林や生態系が豊かに保たれ、またそれを人が生活に活用することで“循環型”の暮らしが営まれてきたのである。

しかし、現在里山の多くは、過疎化や高齢化が進行する中で、耕作されない農地、いわゆる“耕作放棄地”が拡大し、さまざまな問題が起こっている。

そのひとつが、今まで山に暮らしていた鹿やイノシシなどの野生の動物が里山に頻繁に現れ、農作物や林業に大きな損害を与えているという問題だ。その被害は深刻で、全国で240億円(*1)もの農作物被害が報告され、林業への被害も約9千ヘクタール(*2)と膨大だ。

これらの被害は、農家や林業家の生産意欲を減退させ、それがまた耕作放棄地を増やし田畑が荒れるという悪循環を生んでいる。

特に、ニホンジカの繁殖率は年に2割前後と高く、4~5年で個体数は倍になるため、農家にとっては本当に死活問題なのだ。

*1 平成24年度農水省
*2 平成26年度 林野庁

 

すべての命を無駄にせず、森にいかす

パートナーの狩猟犬と一緒に山に入る黒田利貴男さん(写真:山崎伸康)

パートナーの狩猟犬と一緒に山に入る黒田利貴男さん(写真:山崎伸康)

 

この野生獣の問題に対して、伊豆半島の南端、静岡県南伊豆町で新しい試みが始まっている。

この町で生まれ育った黒田利貴男(ときお)さんらが設立した株式会社森守は、野生獣を捕獲するだけでなく、人と動物が共存できるような森作りを進めている。

その試みの中心となるのが、同社が運営する、昨年11月にオープンした『野生獣肉処理センター』だ。

現在日本では、年間97万頭の野生獣が捕獲されるが、活用されているのは2割ほどしかなく、残りは山に埋められるか破棄されている。昨今は、ジビエとして野生鹿やイノシシ肉などが特産品として利用されはじめ、全国にも110を超える処理加工施設があるが、黒田さんらのように、国や行政の補助を受けず完全民営で経営するケースは珍しい。

同センターでは、補助金を使わないことにより、動物の命をすべて無駄にせず、まるごと活かすことが可能となった。食用となる肉はもちろん、それ以外の従来廃棄されていた部位はペットフードなどに利用され、ゴミになる部位はほとんどない。また、南伊豆で捕獲され、森守の定める条件をクリアした獣は1日5頭まで受け入れる。

これにより、今まで無駄にされていた部位すべてが活かされ、野生獣を持ち込んだ猟師の収入にもなる。さらに、処理加工の雇用が生まれ、商品として販売することで経営的に安定し、それがまた森や里山に活かされるという循環をつくる。

黒田さんは森守の思いをこう表現する。

「すべての命を無駄にせず、命と森を守り、育てる」

その思いの核になるのが、この処理センターなのである。