3Dプリンターは、絶滅危機に瀕するアフリカのサイを救えるか?

3Dプリンターを使ってサイの「角」を生産し、販売することによってサイの違法狩猟をストップさせよう、という試みが、アメリカのシアトルにあるバイオテクノロジー関連会社・Pembientによって進められている。
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密猟ストップに、あらたな提案

サイの角は、非常に高額である。闇取引では、純金もしくはコカイン以上の高額で取引されるといわれている。この角のために、1年間で1千頭以上のサイがアフリカで殺されているとされるが、これを憂いたアメリカの企業Pembient社がサイ殺戮にストップをかけるべく、3Dプリンタを駆使して「サイの角」を製作することに着手したのである。

アフリカのレンジャー部隊(野生動物保護監視員)たちの努力もむなしく、サイ狩りは続けられている。世界各国の要人らが音頭を取った保護活動も盛んではあるが、違法狩猟はあとを絶たない状態だ。角を取るためだけにサイを殺すことに歯止めをかけるべく、密猟を取り締まることはもちろんだが、他にも何か、いい手立てはないものだろうか?画期的な方法をもってして、この問題をどうにか解決できないものか?と試行錯誤した結果、Pembient社は人の手によってサイの角をつくることを考案したのだ。

Pembient社では、3Dプリンターで製作したサイの角を、大量に流通させることを企んでいるという。サイの角は稀少価値があるからこそ、信じられないほどの高額で闇取引されるわけだが、大量に出回るとなれば当然のことながら、原価もぐっと下がるのが相場と考えられる。となれば、ボロ儲けは期待薄となり、密猟も下火になって、最終的にはなくなるだろう、というのがPembient社によるこのプロジェクトの目的なのである。

 

アジア大陸から,サイは5年前に絶滅

18世紀末から19世紀初頭にかけ、アジア諸国ではサイの狩猟が固く禁じられていたにもかかわらず、2011年、ベトナムに1頭生息していたジャワ・サイが密猟者によって殺されたことがわかり、遂にアジア大陸からはサイが絶滅した、とベトナム政府によって宣言された。現在は、ジャワ島に50頭ほどがかろうじて生き延びているのみだが、このように、アジア地域に生息する野生のサイが極端に少なくなったため、アフリカのサイが受難の道を辿ることになったといわれている。

アジア諸国では、古くからサイの角には不思議な薬効があると信じられてきた。特に、解毒作用があるといわれており、粉末にされた角が、飲み薬や塗り薬に加工され、非常に珍重されているという。最近では、ガンにもよく効くといった根拠のない評判まで立ったおかげで、アフリカのサイ狩りに拍車がかかる形になってしまったという。

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ところで、サイの角には本当に薬効があるのだろうか?各国の研究者たちが、粉末にしたサイの角を用いて調査を行ったところ、解熱に効力を発揮する成分が含まれていることが判明したという。しかし、それとて一般の市販薬(たとえばイブプロフェンなどの解熱剤)と、ほぼ同じ程度の効用しかないということで、「霊薬」とまで崇められるべきレベルのものではないそうだ。

 

人工角の「効用」は?

それでも、いまだに珍重されているサイの角の代用品として製作されたこの「人工角」はいったい、どのようにして製造されているのだろうか。もちろん、その詳細は「企業秘密」ではあるが、さわりだけを御紹介しよう。サイの角の主要成分は、たんぱく質のケラチンである。このケラチンの遺伝子暗号をひも解いて「コピー」し、それをベースにして3Dプリンタで人工的に新たな角を作り出す方法を用いているのだそうだ。

Pembient社のCEO、マシュー・マーカス氏によれば、こうして作られた「人工角」が、実際に解熱作用に効能をあらわすか否かは不明、としながらも、サイの角を利用する人たちにとってはもちろん、使い出があると見積もっている。また彼は、別の見解をも示しているのだが、3Dプリンターによって生産された人工角のほうが、100%衛生的だ、というのだ。確かに、3Dプリンターを用いラボラトリアム内で作られているわけだから、不純混合物含有量はほぼ、0%に近いと考えられる。自然界で生きていたサイの角を切る場合は、当然ながらバクテリアがたくさんついた刃物が使用されるだろうとし、薬品化されるまでにどれほど不衛生な状態・経路をたどるかなどはまったく不明だが、清潔な環境の下で製造された人工角ならば、使用する側にとって安心だろう、と氏はアピールしている。

 

密猟に拍車がかかる?

Pembient社は、この画期的な案を非常に誇りとして研究を進めているが、サイの保護組織・団体や研究者たちは別の見解を示している。人工の角が市場に出回ることによって、本物の角の需要が増大するのではないかと見られているのだ。オランダの犯罪学者・ダン・ヴァン・ウルム氏が独自に行った、密猟関連の研究調査報告によれば、人工の角が大量に出回れば市場が飽和状態になるが、「人工でも、角は角」ということで満足する人も増えるだろうと見ている。しかし、薬効があるか否か?の点では、人びとが人工角に100%満足するかどうかは不明だとしている。となれば、「やっぱり、本物の角じゃないとダメだ」という人も出てくるであろうし、密猟がさらに増すのではないか?という杞憂がなきにしもあらず、ということだ。

しかしPembient社では、サイを守る使命に燃えつつ、昨年9月にこの「人口角」の販売会社を中国に設立、「Essence of Rhino Horn(サイの角エッセンス)」なる美容クリームを販売広告を既に製作している。

この一連の「人工の角」プロジェクトに対し、ヨーロッパ諸国の野生生物保護団体や研究・調査団体からは賛否両論が挙がっており、どちらかといえば否の意見が多いようだ。しかし、サイの全滅に、少しなりともストップをかけると期待されるこのプロジェクトが今後、どうなるかを見極める必要性もあるのではないだろうか。

 

【参考】

※ Pembient – Bioengineered Wildlife Products

Essence of Rhino Horn(サイの角エッセンス)の広告