現代版“鶴の恩返し”が 日本のモノづくりを元気にする!【後編】

「IoT元年」といわれた、2016年。

その象徴の一つとして多くのひとの記憶に残っているのが、CEATEC JAPANの会場を天高く舞った『ORIZURU』ではないだろうか。

ORIZURUの開発秘話や最新技術を探るインタビュー後編では、ORIZURUの技術がもたらす日本のモノづくりへの好影響や、未来への期待を語っていただいた。(全2回

Source:https://www.youtube.com/watch?v=gF9PZjDvwu8

自由な発想で、日本の教育も楽しく変える

001

ラピスセミコンダクタ株式会社の斎藤直孝氏。(C)ATSUSHINARUSES

 

――ORIZURUに搭載されているマイコンボード『Lazurite Fly』は、ORIZURU専用のものなのですか?

当初は専用マイコンボードとして開発していましたが、一般の方向けに発売を予定しています。

すでに発売されている『Lazurite』にセンサやモータードライバが追加されていますので、モノを飛ばす(=Fly)など以外にも、自由な発想で使っていただければと考えています。

――たとえば、どのような用途を想定されていますか?

これも開発当初には思いもよらなかったことですが、電子工作や教育分野で使用していただけると考えています。

――自分でORIZURUのような飛行体をつくることができるのは楽しそうですね。そのほかにも、教育分野で応用できるのですか?

たとえば、高校数学などの教材にも使っていただけると考えています。

私自身、安定飛行をさせるための制御の専門家ではありませんので、ORIZURUをつくるプロセスで「センサを正しく使って、安定して数値を読む」という部分にとても苦労しました。そのなかで、たとえば機体の角度を計算するためには「高校数学で学んだサイン・コサインといった三角比や行列などが重要なんだ!」と痛感したりしました。

――高校時代は、「これって、何のために勉強しているんだろう」と思いました(笑)。

私もそう感じていました(笑)。でも、そういった数学の公式などについて、ORIZURUの開発を通して「こうやって使えばいいのか!」と体感的に学べたのです。

――なるほど、逆に考えれば、『Lazurite Fly』で取得したデータと実際のモノの挙動を見比べながら、「こうやって計算をすれば、このような結果が出てくる」という感じで、数学の公式などを実践的に学べるということですね。

そうです。『Lazurite Fly』のような安価で手軽なデバイスで体験しながら学ぶことで、学問や技術、そしてそれらが持つ可能性に興味を持って、最終的にエンジニアを目指す若いひとが増えてくれればいいなと思っています。

プログラミング初心者の方にも『Lazurite』を楽しく使っていただけるように、『らずらいと姫の挑戦日記』というブログも公開中です。

さまざまなモノづくりの現場にも応用可能

002

(C)ATSUSHINARUSE

―インタビュー前編で、『Lazurite』はあらゆる制御が可能ということでしたが、どのような産業で利用されていくのでしょうか?

現在の実用例としては、旋盤加工企業さんが製品の品質や作業効率を改善するために、工場内にある加工機などの動きのモニタリング用に導入されています。

約100メートル四方の工場で、各設備に電流センサをつけて、そのデータを『Lazurite』で取得。別の『Lazurite』に無線でデータを送信して、「1号機は10アンペア流れているから、正常運転中」「2号機の電流がゼロになったから、停止した」など、簡単にモニタリングできるシステムになっています。

――そのケースでのメリットは何ですか?

電池でも動いて、工場のどこに設置していても電波が届くこと、そして簡単に自社に合ったシステムをつくれるということです。さらに、その簡易なシステム導入だけで、設備の誤作動などによる危険も回避できます。

また、工場に限らず、たとえば温度を感じるセンサを入れておけば火災予防がきるなど、さまざまなシチュエーションで危険度を格段に下げることも可能です。

 

「簡単で、安い」という、わかりやすい優位性

――高度な専門知識がなくても、簡単に、効率性や安全性を向上できるんですね。

コスト面でも、大きなメリットがあります。このような監視システムを、すでに出来上がった工場のシステムに追加導入するには、かなりの費用がかかります。

しかし、『Lazurite』を使えば、電池駆動と無線通信なので電気配線などの工事が不要ですし、一つのシステムさえつくってしまえば『Lazurite』やセンサを何台でも増設していけるという“拡張性”も備えています。通常は数百万円かかるようなシステムも、1/10以下のコストで導入可能です。

――製品などの“モノ”自体だけでなく、モノづくりの現場にも有効ということですね。

そうです。適切な生産体制ができるようになれば、製品の品質だけでなく、価格的にも、日本の製造業が再び世界で高い競争力を持つことができると考えています。

 

日常生活での、あらゆるモニタリングも可能に

――一方で、コンシューマ向けにはどのような応用が考えられますか?

センシングしたいもの、つまり状態を知りたいものに関しては、どのようなものにでも応用できます。それは『Lazurite』単体でも可能ですし、『Lazurite』を組み込んだ製品でも同じです。

たとえば一般家庭であれば、「冷蔵庫に、卵が何個あるか?」、「冷えたビールはあるか?」、あるいは「シャンプーの残量は?」といったことも、外出先からモニタリングできます。また、「洗濯が終わったら、家のどこにいても通知される」など、さまざまなシーンで利用できます。

さらに今後は、屋外でも使用できるように進化させようと考えています。

――そうなると、複数人でキャンプや登山へ行く場合などに、それぞれが『Lazurite』を持っていれば、離れてしまってもお互いの居場所がわかるというようなこともできますね。

もし携帯電話の電波が入らないような状況でも、そのような使い方が可能です。そういう意味では、“安全”という面で人々の生活に幅広く寄与することもできるはずです。

orizuru

(C)ラピスセミコンダクタ株式会社/ローム株式会社

不世出技術とのコラボで、日本を、世界を元気にするデバイス

――今後、『Lazurite』を通じて、どのような社会を実現していきたいですか?

まず、ORIZURUで『超小型飛行体研究所』の宗像氏とコラボレーションしたように、『Lazurite』を使っていただくことで、まだ世の中に出ていない優秀な技術を世界に発信して、技術で社会が豊かになるお手伝いをしたいと考えています。

さらに、先ほどお話しした工場での導入例のように、モノづくりの現場で活用していただくことで、日本の製造業が世界で戦える強さを取り戻していってほしいです。

――日本の産業が元気になれば、働くひとたちも元気で豊かになっていって、社会全体の豊かさにつながる可能性も広がっていきますね。

そんなふうに、世界で活躍する日本企業や日本人が増えて、『Lazurite』が日本を元気にするためのお役に立てるデバイスになっていってくれるとうれしいです。

――日本発のIoTから、世界標準の技術になっていくかもしれないですね。

将来的に「ビッグデータや人々が知りたい情報は、すべて『Lazurite』を介してインターネット上に蓄積されている」というような、モノとインターネットを繋ぐデバイスに使われていけばと思います。

 

日本のモノづくりに、“遊び心”を再び

――斎藤さん自身の、開発者としての夢は何ですか?

私はラピスセミコンダクタという企業の一社員ですから、まずは自分が始めた新規事業である『Lazurite』を会社の事業の柱の一つにしていきたいと考えています。そして、このことを転機に、さらに新しいアイデアを発信できる会社になっていくとうれしいです。

また、遊び心を絶対に忘れずに、「仕事を楽しむ」という要素を加えながらモノをつくっていきたいと思います。

――ORIZURUのように、ひとを楽しませたり、喜ばせたりするモノを、今後もつくっていきたいですか?

はい。最近は、日本のモノづくりに遊び心というものが少なくなってきているのではないかと感じています。

やはり開発者が遊び心を持っていないと、「次はこんなことをやってみよう!」とチャレンジする気持ちもなくなってしまいますし、技術の“伸びしろ”も生まれませんから、モノづくりは成長していかないかもしれません。ですから、遊び心を大切にして、「ひとを楽しませ、喜ばせたい」という想いは、モノづくりにとって不可欠だと考えています。

――お話をお伺いしていると、最先端技術と日本の伝統文化である折紙を融合したORIZURUは、日本のお家芸だった“モノづくり”復活に向けた象徴にもなりえるのではないかと思えてきました。

毎年、多くの方から「ORIZURUは楽しかった」「今年も進化を楽しみにしていた」とおっしゃっていただけることが励みになっていて、それを原動力にしてORIZURUや私たちの技術力が発展していることは確かです。だからこそ、皆さんのお役に立つことが、私たちの大きな目標にもなっています。

――ORIZURUの成果が、日本の産業や未来の発展にもフィードバックされていくとは、なんだか“鶴の恩返し”のようでもありますね。

今後も、私たちの技術の集大成の一つとして、ORIZURUを今後も進化させて皆さんにもっと楽しんでいただいて、『Lazurite』をさらに役立つものにしていきたいと思います。

 

【取材協力】

斎藤直孝●ラピスセミコンダクタ株式会社新規事業開拓室担当課長。1971年、神奈川県小田原市生まれ。1994年、青山学院大学 理工学部卒業。1994年4月に沖電気工業株式会社(半導体事業部)に入社し、2008年に分社化され、ラピスセミコンダクタ株式会社へ。音声・オーディオLSIの開発やマーケティング担当を経て、新規事業開拓室にて『Lazurite』を開発。