3Dプリント超小型EVとクルマづくりの将来【ホンダ☓カブク】後編

国内で初めて3Dプリンターで製作されたクルマ、超小型EV(電気自動車)の『マイクロコミューター豊島屋モデル(以下、豊島屋モデル)』。神奈川県鎌倉市のお菓子メーカー豊島屋のニーズに合わせ、自動車メーカーのホンダとデジタル技術による新しいもの作りを推進するカブクが共同製作したこのモデルは、今後クルマの作り方にどう影響してくるのだろうか?

ホンダ スマートコミュニティ企画室・主任の榊 秀雄氏と、カブクでインダストリアル デザイナーを務める横井康秀氏へのインタビュー第2弾は、3Dプリント技術の普及と、クルマづくりの将来について語ってもらった。

<インタビュー記事・第1弾はこちら→3Dプリント超小型EV製作ストーリー【ホンダ×カブク】前編

ホンダ スマートコミュニティ企画室・主任の榊秀雄氏(右)と、カブクでインダストリアル デザイナーを務める横井康秀氏 (左)。

 

大量生には不向き?

──3Dプリンターは将来クルマづくりに導入される可能性はありますか?

榊:金型が不要なため、短期間に作れるというメリットはあります。ただし、弊社のように何万台、何十万台も4輪車や2輪車を大量生産する企業の場合は、金型を作った方が高効率で単価も安くなります。その意味で、3Dプリンターは少量生産向きかもしれません。

ただし、今回の『豊島屋モデル』のように、企業様などの個別ニーズに合わせて少量生産する場合などでしたら、導入の可能性はあると思います。

あと、モーターショーなどに出すコンセプトモデルのパーツなど、少量で短期間に作る必要がある部品などなら、精度が高いこともあり、使える可能性はあると思います。

写真提供:本田技研工業株式会社

 

──普通乗用車など、大量に作るクルマには不向き? 

横井:大きさ的にも、現状ある工業用3Dプリンターでは、今回の『豊島屋モデル』が最大級です。

それに、今回は外装カバーや荷室だけでABS樹脂を使いましたが、シャーシまで作るとなると使う材質も変わってきます。ただし、今工業用3Dプリンターの進歩はかなり早いので、将来的に作れる大きさや量のキャパシティが増える可能性はあります。

また、使える材質もかなり多くなってきています。金属や樹脂はもちろん、最近ではカーボンやガラスなども使えるようになってきていますね。

 

 

新規参入企業の加で普及が進む?

──まさに日進月歩ですね。あと、コスト的にもっと安くなる可能性は? 

横井:工業用3Dプリンターの価格は、少し前に比べれば安くなったのですが、それでも数千万円とか数億円単位と高価です。ところが、ここ数年で様々な企業が3Dプリンターの市場に参入してきています。日本企業でもキヤノン、エプソン、東芝、リコーといった大企業が次々と工業用3Dプリンターの開発を発表しているのです。

それらの企業が、今後次々と自社製品を販売し始めれば、まずは価格競争が起こり、工業用3Dプリンターがもっと安くなる可能性はあります。

現在は、導入するかどうか迷っている工場も多く、その意味では過渡期だといえます。もし3Dプリンターの価格が安くなれば、製造コストが安くなるのはもちろん、多くの工場に普及していくことになると思います。

写真提供:本田技研工業株式会社

 

実際の運用には法整備も不可欠

──ところで現在、『豊島屋モデル』はすでに運用されてるのでしょうか? 

榊:現在のところ運用には至っていません。「超小型モビリティ(注1)」の規格でいくか、他の規格でいくかなどを検討中です。どの規格にするのかで基準が変わるので、実際に公道を走らせる場合は、その基準に合わせないといけませんので。

──「超小型モビリティ」の場合は、限られたエリアだけでの走行になりますよね? 

榊:現状ではそうですね。(豊島屋が拠点とする)鎌倉市内だけを走らせる場合は、国に申請を行い、認可が出たら市内だけを走ることができます。

また、他の市をまたぐ場合や神奈川県全域を回る場合も、申請を行い認められれば可能です。

──「超小型モビリティ」が全国で走れるようになるには? 

榊:「超小型モビリティ」が新しいカテゴリーとして認められれば、全国で走れるようになるでしょうね。そうなれば、市場も変わりさらにニーズも出てくると思います。

写真提供:本田技研工業株式会社

3Dプリンターでみんなが作った1が可能に!?

 ──他に3Dプリンターが今後、クルマ作りに影響を与えるようなことはありますか? 

横井これは私の勝手な想像ですが、今回の「豊島屋モデル」のデータを、もし一般に公開することができると仮定しましょう。豊島屋さんからの許可も頂いて。そして、データを公開することで、様々なデザイナーやクリエーターの方々にカスタマイズしてもらう。

たとえば、「豊島屋モデル」の後部パネルに入れた鳩をアジサイにするといった感じですね。そうやって、いろんな人がいろんなアイデアを出してデザインをし、3Dプリンターでクルマを作る。もし、そういった「二次創作」が可能になれば、今後は「みんなで作った1台」といったクルマができる時代がくるかもしれません。

あの『初音ミク』のような感じですね。そうなれば、クルマが単なる移動の手段ではなく、全く新しい付加価値を持つことになると思います。

技術革新はもちろん、法整備も含めてまだまだ課題が多い3Dプリンター。だが、日本の基幹産業のひとつであるクルマ製造業にも、様々な革新をもたらす可能性は十分にある。今後もその動向から目が離せない。(了)

(文中敬称略)

 

■榊秀雄
本田技研工業株式会社ビジネス開発統括部スマートコミュニティ企画室 主任
1974年11月21日生まれ。1997年に本田技研工業に入社後、主に2輪車の開発に携わる。2013年に現在のスマートコミュニティ企画室へ配属。『MC-β』の実証実験やエネルギー事業など、数多くの新規プロジェクトに携わっている。

■横井康秀
株式会社カブク インダストリアル デザイナー 
1984年9月26日生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを専攻、卒業後はニコンに入社。ハイエンド・デジタル一眼レフカメラD4など数多くの製品を手掛け、金型による大量生産にも造詣が深い。2014年にカブクに参画。現在は、3Dプリンターを駆使した新しいもの作りにチャンレンジしている。

 

【取材協力】
本田技研工業株式会社
株式会社カブク

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