気候変動問題のカギを握る「悪名高き」巨大企業は生まれ変わるのか

世界に広がったAPPバッシング

多くの科学者や環境保護活動家たちは、この問題をかなり以前から訴え続けていた。世界中から研究者や活動家がインドネシア入りし、森林伐採の実態を調査。開発によって森から追い出される原住民たちを組織し、反対運動を繰り広げた。

しかし、政府やグローバル資本という圧倒的なバックをもつ同社には敵うはずもなく、多くの死傷者・行方不明者を出し、事態は悪化の一途。

だが、インターネットとSNSの登場が、その流れを大きく変えた。

世界自然保護基金(WWF)とグリーンピースという世界的に影響力をもつ環境保護団体がこの問題を重点的に取り上げ始め、インターネットを使って世界規模のキャンペーンを打ち始める。

APP及びシナルマス・グループ会社と取引のある企業を徹底的に叩き、不買運動を展開。融資を行う金融機関や投資家たちにも、APPと関わることへの危険性を警告した。そしてこの問題をより多くの人々に知ってもらうために、あえて目立つ会社を標的に選び、不買運動を世界に拡散させた。

バービー人形で知られるマッテル社は、バービーの梱包箱にAPPの紙が使われているという理由で激しく糾弾され、不買運動を仕掛けられた。

また、P&Gはシャンプーなどの原材料にシナルマス企業のパームオイルが使われていることで、こちらもネガティブ・キャンペーンの標的となった。

世界的な不買運動は功を奏し、マテル、P&Gをはじめ、ネスレ、ユニリーバ、ダノン、レゴ、ナショナルジオグラフィックなど100社以上の企業が、APPとの取引を停止せざるを得ない状況にまでになった。

 

APPの変化の兆し

これにより多大な経済的損失をうけ、社会的信用をも失ったAPPとシナルマスは、2013年2月に森林保護方針と自然林伐採ゼロの誓約を発表。これまで行ってきた森林破壊への反省と、未来に向けた企業活動の指針を定めた。

また、第3者機関による監視を受け入れ、グリーンピース、WWFといったステークホルダーとも共同歩調をとることを決意。すべては解決へ向かうかと思われた。

だが、この問題は“きれいごと”では済まされない事情ももつ。インドネシアは製紙産業を国家の5大基盤産業のひとつと位置付け、製紙産業では世界トップシェア獲得を国家目標としている。そのためにこれまでシナルマスとAPPには、様々な政府からの支援があったわけだ。

数少ない“売上1兆円企業”であるAPPには、これまで通りの成長を続けてもらわないと国家としても困る。そんななか、法を曲解し、誓約の目をかいくぐる森林伐採が横行。インドネシアの森林は原則国有林であり、役人のさじ加減ひとつで自由に扱える。企業トップと現場レベル、そして各州政府間での言動の乖離が目立ち始め、混乱は続いた。

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