昨今、徐々に年齢が引き伸ばされつつある定年制。かつては55歳で定年退職が一般的でしたが、医療の発達などにより人々の寿命が長くなるにつれて定年が60歳に引き上げられ、2013年には改正高年齢者雇用安定法の制定によって65歳まで働くことができるようになりました。人生100年時代といった考えが広まりつつある現代において、定年の年齢はさらに引き上げられていく可能性があります。
こうした中で、サントリーホールディングスの新浪剛史社長が45歳定年制の導入について発言したことが話題となっています。
“45歳定年制”とは?
時事ドットコムで、“新浪剛史社長は9日、経済同友会の夏季セミナーにオンラインで出席し、ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べた”ことが報じられています(※1)。
60歳まで働けるという安心感から、副業などの会社外での働き先の確保を疎かにしてしまい、結果的に定年退職後に働き口が見つからずに焦る……といった事態を想定すると、新浪剛史社長のこの発言は社員の将来性を見据えた合理的な提案ともいえるでしょう。
この提案に対し賛同する声もある一方、批判の声も上がるなど、SNS上ではさまざまな意見が飛び交っていました。
SNSでの反応
年齢が上がるごとに職階が上がり、給与も増えるという年功序列型の組織体制を鑑みると、企業側にとってはコストカットにつながるのでメリットがあるかもしれません。しかし、40歳まで長く勤めてきた会社を辞めて転職することはハードルが高い場合もあり、そのような社員にとっては厳しい制度といえます。
能力給でない体制が、今回のような提案を生んでいるのでは……という声もありました。年功序列の体制ゆえ、能力が低くても年齢を重ねれば給与が上がってしまう背景から、45歳定年制の導入が検討されたともいえるでしょう。
定年退職した層を定年前より安い賃金で再雇用する、といったシステムは、日本のほとんどの企業で採用されています。定年を45歳に引き下げることで、定年退職者を増やし、低賃金で再雇用できる層を増やすという思惑が背景にあるのでは……という見方もありました。企業側のメリットは多くあれども、従業員側のメリットが少ないのでは……そう思う人もいます。
高齢化が進む昨今において、45歳を定年で区切り社会へ「放り投げる」ことへの批判の声も上がっていました。本制度の導入によって、結果として高齢者層の再就職難民が増える未来もあり得るでしょう。
バブル崩壊後の不景気、そこからの就職氷河期を乗り越えた40代の層が、45歳定年制によって突然切り落とされてしまうことへの落胆の声もありました。日本経済低迷の被害を受けたといえる世代が、さらに定年の引き下げにより会社から追い出されることを鑑みると、就職氷河期世代には踏んだり蹴ったりの制度かもしれません。
ちなみに、新浪剛史社長のこの発言について、政府は“「国としては70歳まで企業に雇用を義務づける方向でお願いしている」(加藤勝信官房長官)”(※2)と述べていることを東洋経済オンラインが報じています。現段階では、国として45歳定年制には消極的であることがわかります。
経済の活性化にもつながる可能性
批判やデメリットもある一方で、45歳定年制が組織に属する人材を柔軟に横移動できることにつながると考えると、有用な経験ある人材を登用できるため、経済の活性化にもつながる可能性があるといえるでしょう。
東洋経済オンラインではさらに、“もし「45歳定年制」があれば、20代・30代の若者はもっと真剣に勉強するはずだというのが新浪社長の主張でした”(※2)と報じられていました。早々に定年がやってくると考えると、社外での社会活動や自身のキャリアをより深く考え、実行に移すようになることも事実でしょう。それを踏まえると、45歳定年制は日本経済をさらに活性化させる一助になるともいえます。
年功序列制が主流となっており、時代の変化によってさまざまな弊害が出てきている日本社会において、45歳定年制の導入が日本経済の復活や活性化にも繋がるかもしれません。
【画像・参考】
※1 45歳定年制導入を コロナ後の変革で―サントリー新浪氏 – 時事ドットコム
※2 45歳定年制に憤る人に知ってほしい働き方の現実 – 東洋経済オンライン
※takayuki/Shutterstock