日本コカ・コーラや日本マイクロソフトなどで要職を務めた江端浩人氏と、P&Gに17年在籍した後ユニリーバや資生堂のブランドマネジメント組織を主導した音部大輔氏による対談企画。対談では、世界をリードする企業のマーケターとしても活躍された2人が、これまでの経験に基づき、具体例を交えながらマーケティング論について語っています。

最終回となる本記事では、第2回で紹介したペルソナ設定において重要な要素である“自我”について深堀しながら、実はさまざまな企業でそれほど実践されていないという“マーケティング戦略”の重要性も解説しています。
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(第2回はコチラから)
音部氏:母として選ぶものと妻として選ぶものは多分同じじゃないですよね。
江端氏:全然違いますよね。
音部氏:でもこの人達デモグラフィカルには全く一緒だし、ペルソナの記述も一緒になっちゃうんですよね。
自我の管理というのは、すなわちそれは母だと思っているということは、誰との関係を思って母としているかというと。子どもとの関係で自分が母なるし、夫との関係で自分が妻になる。
ということは、どの社会との接点を見出しているかっていうのが影響するんすよね。
そうした全人格的というか包括的な消費者理解をもってプランニングする、というのはこれから重要なことではないかと思うんですけれども同時にこの自我が変わるんですよね、途中で。

江端氏:年を重ねていくとかじゃなくて1日の中でも?
音部氏:年を重ねるときに子どもができて母になるというのはもちろんあるのだけれども、1日の中でも変わるんですよ。欲しいなと思ったときと買おうと思ったときで違う人格が出てきたりすることがあります。ショッパーマーケティングとかは自我の転換ですよね。
コンシューマーであるときは洗剤の20円価格差って絶対どうでもいいじゃないですか。でも、店頭に行くとその20円価格差って抗いようもなく高い金になるものもありますよね。
コンシューマーからショッパーに、あるいは母から購買者に自我が変わっちゃったからそうなっているので、その知覚刺激にどういうメッセージを発するかで自我を元に戻したりはできる話だと思うんですよね。
ですから、こんなのも含め全体をうまく最適化するというあたりは、読んでもらえるといいなぁとか思います。
江端氏:確かにいる場所によっても違いますし、なにをしているかでも全然違いますよね。週末に農園とか行って野菜とか採っているときと銀座で飲んでいるとき、全然違いますもんね。

音部氏:あとは、10年、20年前と比べると大きい代理広告会社に全部丸投げってやりにくくなってきていると思うんですよ。
いろんなテクノロジーや、ノウハウをお持ちのスタートアップ企業や広告会社が登場してきて、うまく使いこなせれば競争優位かもしれません。そうして、複数のプレイヤーで連携しなきゃいけなくなります。
何年も一緒にやっているジャズバンドのアドリブの演奏なら、特に楽譜がなくても大丈夫だと思いますが、「初めまして」な人たちで作ったメンバーでオーケストラを演奏するなら、たぶん楽譜は欲しいですよね。
江端氏:楽譜は絶対ないとめちゃくちゃなことになりますね、きっとね。
音部氏:その楽譜がパーセプションフロー®・モデルです。楽譜が読めないと、アドリブの参加しかできなくなってくる可能性あるんですよね。
でも楽譜が読めると、全体に対してどう貢献すればいいかがわかったり、あるいは他のプレイヤーと連携できたり、共創ができたり。共通言語としての設計図が読めるっていうのは、いろんな立場で役に立つことがあるんじゃないかと思います。
江端氏:今のが一番見所というか、パーセプションフロー®・モデルを理解すると何が見えるようになるかっていうのがなるほどと思いました。
音部氏:きっと、今のクライアントさんとこれを使うとコミュニケーションしやすくなるなんていうこともあるかもしれないですね。
江端氏:パーセプションシリーズは終わったとして、次もし本を出すんだったらこんなの出したいなとか今考えているところとかありますか。

音部氏:次はですね、まだ明確には決まってはないです。でも、気になっているのは戦略の本を出してからいろいろまた新しい知見が溜まってきたことです。戦略をいかに効率よく、効果的に作るか、という方法論は、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』ではあんまり明示していませんが、普遍的なやり方が見えてきました。戦略の具体的なやり方は多分人によると思うんですけど、共通するコツがあるようです。
これたまにこういう話をするんです。バットを握るときに、右利きなのに左手を上に構えるようなマーケティングをする人がいます。体系的に教えられていないんです。それでも、2割打者だったりする人がいるんですよ。そういった人達には、右手を上にしてみよう、と教えるだけでものすごいスラッガーなることがあるんですね。
何を言ってるかというと、戦略の作り方は、多分状況と人によって、目的と資源によっておおいにバリエーションがあると思うけど、一貫性のあるコツってのがきっとあると思うんですよね。
バットの振り方は様々なんだろうけど、利き手が上、というのは多分普遍的な話じゃないかと思います。
江端氏:根本的な話ですが、戦略ってみんな作ってます? なんとなくデジタルマーケティング界隈で、戦術しかやっていないみたいなケースが逆にあるかも知れない。
ABテストだけやっていればいいみたいなのもあるとは思って、それも間違いではないと思うんですけど、でかいブランドの土台を作ろうと思うときにあんまり皆さんやっていないのかなと。
音部氏:それはやった方がいいですよ。ものすごい強運であればいいかもしれないですけど、そうでないんだったら戦略があるとつまるところ、有限な資源、例えば使えるお金や作業量、時間などをより効率よく効果的に使えます。必然的に、勝率が上がります。
もし、戦略なしでサバイブしてきたのであれば素晴らしいことだと思うんですけど、再現性をもって持続的にサバイブし続けるためには戦略を作ってみましょう。再現性をもって、資源がうまく使えるので、持続的に勝率をあげられます。
本記事で公開した内容のほか、動画ではマーケティング分析などを具体的な事例に基づいて解説しています。対談の全貌をぜひチェックしてみてください。
『The Art of Marketing マーケティングの技法 ―パーセプションフロー®・モデル全解説』はこちら
【画像・参考】
※『パーセプションフロー®』は音部大輔氏の商標または登録商標です。
※江端浩人の「スタンフォード式」幸福度が高まるビジネス&キャリアの育て方/YouTube
※Blue Planet Studio・pathdoc/Shutterstock