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ほんもののインテリジェンスとは

脳科学者であり、脳と心の関係を長年研究している茂木健一郎氏。今回はそんな茂木氏が、あらためて“ほんもののインテリジェンス”について語っています。

 世界的に分断やエコーチェンバーと言われる現象が起こったこの数年間であるが、次第に、次のフェーズに移ろうとしているように感じる。

 鍵になるのは、「インテリジェンス」(intelligence)。日本語では通常「知性」と訳されることが多いが、同時に、「諜報」という意味もある。

 諜報と言えば、国家と国家の関係などにおいて、相手に関する情報をさまざまなかたちで収集すること。「スパイ」や「情報部員」というイメージが強いが、それだけでは「インテリジェンス」の持つ意義の普遍性や必要性は理解できない。

 「インテリジェンス」は、現代の私たちにとって、必須な技術であり、ものの見方。スパイや政府関係者などの特殊な分野にいる特別な人たちにとっでだけでなく、すべての生活者にとって幅広く意味があり、価値のある活動であり、世界に対するスタンスである。

 例えば、学校選び。かつては、「偏差値」という単純な切り口で、ペーペーテストの点数を上げて、進学校を目指し、入学後は今度は一流大学を目指せばよかった。偏差値の高い大学に合格できればそれが「ゴール」。今でもそのような風潮はあるけれども、すっかり望ましい学び方の様相が変わり、また多様化している。

 フリースクールや通信制の高校、インターナショナルスクール、バカロレア準拠校、ホームスクーリングなどのさまざまな選択肢が広がり、また大学への進学も従来型の入試に加えてAO入試などの多様な選択肢が見られるようになった。さらには、大学そのものも、英米の有名大学はもちろん、学費が安く英語で学ぶことができるハンガリーの国立大学医学部、ミネルヴァ大学などの新しい高等教育機関、「42」などの無料のプログラミングスクールなど、選択肢が広がってきている。

 もちろん、ペイパルの創業者の一人でいわゆる「ペイパルマフィア」のドン、ピーター・ティールが言うように、そもそも大学に行く意味がないという考え方もある。大学に行かないこと、あるいは行っている場合はやめることが受給の条件である「ティール・フェローシップ」もあって、仮想通貨、イーサリウムの創業者であるヴィタリック・ブテリンなどを輩出している。

 今や、どんなに優れた学校に行っても、それだけでは社会のイノベーションのスピードについていけない。付加価値も生み出すことができない。学び方の多様化によって、どのような選択肢があるのかということについての「インテリジェンス」がなければ、ベストな選択をすることができない時代になっている。

 働き方も同様である。世の中にどのような会社があり、どんな職業があるのか。キャリア形成においては何を重視し、どのようなスキルを磨いていく必要があるのか。そのような観点から情報を収集し、分析し、本質を見抜く洞察をしなければベストな選択どころか、「合格点」の行動もできない時代が到来している。

 今後、人工知能の発達によってどのような職業がなくなり、どんな新しい仕事が生まれるのか。仕事の内容は、どのように変わるのか。どんな働き方がいちばん付加価値を生み出すのか、最新の情報を把握して分析、咀嚼しておかなければいつの間にか損をする。

 メディアのあり方も激変している。若い世代にとって地上波テレビや新聞はすっかり縁遠い存在になり、ユーチューブ、ツイッター、インスタ、TikTok、twitchといったメディアが大きな力を持ち始めている。チャンネル、Ryan’s worldで世界で最も稼ぐユーチューバーとなったライアン君は、さまざまなおもちゃを箱から開けるその表情がかわいい。ライアン君がユーチューバになったきっかけは、他の子どもがおもちゃを開けている動画を見て、「なぜぼくがあの動画の中にいないの?」と素朴な疑問を口にしたことだという。それを聞いてひらめいたライアン君のお母さんは、学校の先生をやっていたのだけれども、その職を辞してライアン君のユーチューブを始めた。

 もし、ライアン君のお母さんが、情報感度の低い人で、ライアンくんが「なぜぼくがあの動画の中にいないの?」と聞いたときにそれに反応しなかったら、世界一稼ぐユーチューバーは誕生していなかったことだろう。

 現代においては、セレンディピティ(偶然の幸運)の種は至るところにある。それをつかむのが、「インテリジェンス」である。

 もちろん、どんなに情報を収集しても、その分析が自分の身につかなければ意味がない。何よりも、さまざまな情報を「自分事」として、納得して咀嚼することが大切である。人間の脳は、たくさんの情報を得過ぎるとかえって混乱してしまうところがある。ランダムな事実の羅列ではなく、それを納得できる分析を加えて、自分自身の生きる糧として活かすことができるのが、本当の意味での「インテリジェンス」である。

 この「脳インテリジェンスレポート」では、一人ひとりの人生のライフハックから、地球規模の大問題まで、私たちの人生にとって大切な問題について深く鋭く考えていきたいと思う。もちろん、最新の脳科学や認知科学、人工知能の知見なども織り交ぜていきたい。

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