近年、ハッブル宇宙望遠鏡やさまざまな探査機は、われわれがこれまでみたことのなかった圧倒的に鮮明な宇宙の画像をいくつももたらしてくれた。天体観測の技術も急速に進んでいる。ここで紹介する観測方法も、壮大でユニークなものだ。
地球サイズのバーチャル望遠鏡で、ブラックホールの“事象の地平面”を撮影しようというものである。
複数の望遠鏡でとらえた時間差を計測する
アリゾナ大学の研究チームが、南極にある最大の天体望遠鏡『South Pole Telescope(SPT)』を使ってあるプロジェクトに参加することを発表した。それは、地球サイズのバーチャル電波望遠鏡システムで、それによって、銀河の中心にあるブラックホールの“輪郭”に相当する“事象の地平面”を撮影しようという試みだ。
このプロジェクトは、『Event Horizon Telescope(EHT:事象の地平面望遠鏡)』と呼ばれる。超長基線電波干渉法(VLBI)という手法を使って、世界各地の電波望遠鏡を連携させ、ブラックホールの詳細な画像を得ようというものだ。
国土地理院のウェブサイトによれば、このVLBIという観測方法は、
はるか数十億光年の彼方にある電波星(準星)から放射される電波を、複数のアンテナで同時に受信し、その到達時刻の差を精密に計測する技術
だという。
したがって、離れた距離にあるアンテナを複数使うことが望ましい。アンテナ感の距離が遠いほど、観測対象はシャープに捉えることができる。まるでそのサイズのひとつの望遠鏡があるかのように観測力が向上するのだ。
このプロジェクトには、すでにアリゾナ、カリフォルニア、ハワイ、チリ、メキシコ、スペインの望遠鏡が参加している。そこに南極の望遠鏡が加わることで、まさに地球サイズの望遠鏡が実現するというわけだ。これによって『EHT』の解像度は2~3倍になるという。
天の河銀河のブラックホールをねらう
この『EHT』が最初のターゲットとしているのは、サジタリウスAとよばれる天の河銀河のブラックホールだ。このブラックホールは太陽の400万倍もの質量があるにもかかわらず、水星の軌道よりも小さいので、観測がむずかしい。このブラックホールの事象の地平面を観測するということは、ニューヨークにある1セント貨の日付をカリフォルニアから読むようなものだという。
しかしハッブル宇宙望遠鏡の1,000倍も解像度が高いというこの『EHT』は、このブラックホールに吸い込まれるガスがまさに事象の地平面に突入していくところを捉えようと試みている。
アインシュタインの一般相対性理論が正しければ、この事象の地平面より先はけっして観測できない。なぜなら、そこからは光さえも出てくることができないからだ。天の河銀河はの中心には約25個の小ぶりなブラックホールがあるとされている。しかし、その天体の特異性を直接観測したり映像化できたことはないという。
南極望遠鏡『SPT』が『EHT』に参加するにあたって、アリゾナ大学のマローン助教授のチームは、電波をとらえる単一ピクセルの特別なカメラを作った。また、台湾の中央研究院物理研究所が供給した正確な原子時計や、スミソニアン天体物理研究所らが用意した1日あたり200TBというハイスピードで電波を記録できる設備が備えられた。
『EHT』本番に先立って、南極望遠鏡はこの設備を使ってチリの『APEX望遠鏡』とともにサジタリウスA、ケンタウロスAの観測を行い、精密な観測結果を得ることに成功した。
『EHT』は毎年行われる実験プロジェクトだが、来年の『EHT』には『SPT』以外にもいくつかの望遠鏡が『EHT』への参加を準備しているため、過去最大規模の地理的スケール、数的スケールになる予定だ。いよいよブラックホールの姿を観測できるときが来るのだろうか?
筆者が子供のころは、ブラックホールというのは理論的に存在が予想されているだけで、存在が確認されたものではなかった。それが近い将来“撮影”されようとしている。われわれが生きているうちに、現時点では予想もつかない発見があるかもしれない。
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【参考・画像】
※ APEX望遠鏡:ESO/B. Tafreshi/TWAN/twanight.org via UA News
※ 国土地理院