グチになるが、筆者が子供のころ、1970年代から1980年代はいまよりずっとひどかった。川は汚れていたし、排気ガスは臭かった。たぶんそのころが最悪だっただろう。それに比べれば、いまはずいぶん環境がきれいになったものだ。まったく損な子供時代を過ごした。
……と最初に書けば、多少は不安がやわらぐだろうか。大気汚染、特に『PM2.5』が、脳に悪影響を与える可能性があるという研究報告が発表されたのだ。アメリカ心臓協会(American Heart Association)がウェブサイトで報じている。
大気汚染で脳が萎縮
これは、微粒子による大気汚染に長時間さらされると、認知障害に先だって起こる脳の微妙な変化や、隠れた脳へのダメージを引き起こす可能性があるというものだ。ここでいう微粒子とは、直径2.5マイクロメーターのもの、いわゆる『PM2.5』を指す。
研究チームは、ボストンの都市圏、ニューイングランド全域、そしてニューヨークに住む943人の比較的健康なひとを調査した。被験者は認知症や脳卒中の経験はないひとたちだ。そして調査したエリアは、この国あるいは世界のなかでも、比較的大気汚染はひどくない地域だ。
1995年から2005年までのあいだに、研究者たちは、MRIを使って、長期間にわたる大気汚染の脳への影響を調査した。そして、大気1立方メートルあたりの『PM2.5』の数値が2マイクログラム増えると、大脳の大きさは0.32%小さくなり、無症候性脳梗塞のリスクが46%上昇することがわかったという。
この数値は、加齢にすれば1年分の脳の萎縮に相当するという。なお、1立方メートルあたり2マイクログラムの違いというのは、大都市圏の中ではよく観測されるレベルの差だ。
脳の深い領域で起こる小さな梗塞は、目立った症状がなかったとしても、神経の異常や認知能力の低下などにつながる。大気汚染がひどい地域では、そういったリスクが高まるというのだ。
PM2.5は人体への影響が大きい
WHOによれば、微粒子が人体に与える影響は、ほかの汚染物質によるものよりも大きいとされる。『PM2.5』は肺胞を通過することができるので、脳に血液を供給している動脈を狭くする動脈狭窄に加担していることもありえる。
なお、これに先だって、大気汚染と、幹線道路の近くに住んでいるひとの脳梗塞の起こしやすさ、認知症の発症を調査した研究があるそうだが、今回の研究発表は、それとも合致しているという。
この研究結果をどう考えるべきだろうか? 明確な違いがでたことを重く受け止めるか、程度にもよるが加齢にして1年程度の差であれば、たいしたことはないと考えるか?
どうアクションするかはひとそれぞれが判断するべきだと思うが、食生活や運動など、生活習慣による影響のほうが、大気汚染の影響より大きい気もする。ともあれ、定期的に検診を受けて、健康的な生活を心がけるべきなのは、いずれにしてもまちがいないだろう。
なお、『PM2.5』というのは、大気中の物質を大きさのみで分類したものであって、その成分までは考慮されていない。いささか乱暴な分類ではある。工場由来のものもあれば、土壌由来のものも存在する。もしかしたら『PM2.5』の数値が同程度でも、有害性の高い場所があったり、あまり害がない場所もあるかもしれない。まだわかっていないことも多い。
冒頭にも述べたように、日本のような先進国ではおおむね大気汚染は改善されているように思えるが、新興国などでは悪化している国もある。近年は中国やインド、イランなどの大気汚染がひどいという。有害物質の低減に、ぜひ日本の技術を生かしてもらいたい。
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