『グラフェン』をご存じだろうか? グラファイト(黒鉛)を単原子層まで剥離することで得られるナノ物質で、薄さは炭素原子1個分。超薄いのに、電気伝導性はシリコンの100倍、強度は鉄の100倍という、次世代のエレクトロニクス材料として現在“最強”とされているものなのだ。
これを使えば、LED電球やEV・HEVなどクルマの軽量化、スマートフォンやPCの高速化に海水の濾過装置への応用、ソーラーパネルを薄くして窓と一体型にする……などなど、まさに多用途。今、世界中が注目している素材なのだ。だが、残念ながら今の技術では、生産コストが高く、大量生産が難しい。そのため、実用化はあまりされておらず、日本の企業をはじめ、様々な国や機関が生産方法を研究している。
そんななか、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)とミシガン大学の合同研究チームが、『グラフェン』を大量に生産でき、結果的にコストも抑えられる新しい『ロール・トゥー・ロール方式』を開発したと発表した。
銅の箔をロールに巻きガスで溶着させる
『グラフェン』の生産には、従来から様々な方法が考えられている。
『ロール・トゥー・ロール』方式もそのひとつで、2つのロールを使って基材(元になる素材)から『グラフェン』を生成する。MITとミシガン大学のチームでは、これを応用して今までにない『連続的な生産』が可能な方式を考案したという。
新しい生産方式を採用した装置は、研究を行っているラボ内に設置。気になるやり方は、主に以下の通りだ。
(1)基材には薄い銅の箔をリボン状にしたものを使用
(2)ロールに巻かれた銅箔リボン(上図左)を、2重構造チューブの外側と内側の間へ通し、内側のチューブに巻き付ける
(3)内側のチューブの内と外へ、それぞれ炭素を含んだ霧状のガスを吹き付ける
(4)ロールなどシステムが入った室内を1,000度の高温にし、ガスに含まれる『グラフェン』を銅箔リボンへ溶着させる
(5)『グラフェン』が溶着した銅箔リボンは、チューブを通り反対側のロール(上図右)へ巻き取られる
研究チームによれば、
このやり方なら、基材の交換や装置を止める頻度が少なく、従来方法に比べて連続的な生産が可能です。ある程度の大量生産ができるし、結果的にコストも抑えられるでしょう
という。
次のステップは10倍の生産スピード
なかなか期待できる研究結果だが、まだ問題もあるようだ。まず、ひとつは基材である銅箔リボンの前処理。現状でも、かなり高品質の『グラフェン』が生成できるらしいのだが、「もっと品質を上げるには事前の処理が必要で、これは今後の課題」だそうだ。
また、生産スピードも、今までよりは格段に上がっているが、チームでは「今の10倍のスピードにしたい」と考えている。
実際に実用化されるまでは、もう少し時間がかかりそうだが、これが“最強素材”普及への道筋になることを期待したい。エレクトロニクスのさらなる革新はもう間近……かな。
【関連記事】
※ 注目の素材「グラフェン」にガンの幹細胞を封じ込める力がありそうだ
※ がん治療に現れた強力な新人「ゴールド・ナノチューブ」とは
※ 「自己修復するジェル」がピンポイントかつ持続的な薬物投与に活躍する
※ スマホバッテリーの究極系がキタ!? 指で触ると発電するシート型
【参考・画像】
※ MIT NEWS