高価で非常に高性能なものが使えるひとは限られる。その点、そこそこの性能でも圧倒的に安価なもののほうが、世の中に与える影響が大きいということもあるかもしれない。
ヒューストン大学の研究チームが、スマートフォンを顕微鏡に変えてしまうレンズを、非常に安価で作りだすことに成功したという。同大学のウェブサイトで紹介されている。
シリコンを加熱して作る
そのレンズは、スマートフォンのカメラ部分に、特別なアタッチメントを使わずに直接取り付けることができる。そして、像を120倍にも拡大することができる。それでいて、わずか3セントで製造することが可能だというのだ。
通常のレンズは、機械的に磨きをかけるか、ガラスやプラスティックの射出成型によって作られる。液体レンズというのもあるが、それには専用のハウジングが必要だ。あるいは、スマートフォンに取り付けるためには、別の部品が必要になる。
しかし、今回ヒューストン大学のWei-Chuan Shih助教授らが作りだしたレンズは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)というシリコンの一種で作る。ハチミツくらいの粘度があるこの素材を熱せられた面に精密に落とすことで加工を行うのだ。
倍率を決めることになるレンズのカーブは、どれくらいの時間、あるいはどれくらいの温度でPDMSを熱するかによって決めることができるという。
この工程によって、ソフトコンタクトレンズのような柔軟性のあるレンズができあがる。ただし、コンタクトレンズよりは厚みがあり、少し小さめだ。
このレンズは粘着力があり、ほかの補助部品を使うことなくカメラのレンズに直接くっつけることができるという。使い終わったら簡単に外すこともできる。そしてまた再び使うこともできる。
機能では顕微鏡に劣るが圧倒的に安い
研究チームは、このスマートフォン-PDMSシステムと、『Olympus IX-70』顕微鏡で、人間の皮膚の毛穴組織の画像を撮影してみた。120倍に拡大したスマートフォンの画像は、オリンパスの顕微鏡の100倍時に匹敵するものだったという。
このPDMSレンズは、材料代がわずか1セント。大量生産すれば1個あたり3セントの製造コストで作れると研究者は試算している。いっぽうで、同等の研究用顕微鏡の値段は、1万ドルだ。
「顕微鏡はたしかに多機能ですが、非常に高価なものなんです」と、研究者のひとりYu-Lung Sung氏はいう。彼がこのレンズを最初に使うことを想定しているのは教育の場面だ。若い学生が使うには安価で便利な方法だと考えている。スマートフォンを使って撮影すれば、シェアすることも文章をつけることも簡単だ。メールで送ることもできる。
そしてなんといっても安いところがいい。高かったら壊したりなくしたりしたときに大変だからだ。
それにしても、製造費3セントというのは魅力的だ。スマートフォンを簡単に顕微鏡にできるのもいいが、ほかのレンズにも使えるものがあるのではないだろうか?
レンズのようなシンプルなモノでも、技術革新によって新しい製造技術がでてくる。それがまた世のなかを変えるかもしれない。
【関連記事】
※ 自撮りに最適かも!どこにでもペタッと貼り付いて遠隔操作できるプチカメラ
※ 自撮りが絶対捗る!スマホが一気に本格カメラになるリングライト
※ iPhoneがコンデジを超える?「本気カメラ」になってしまうケース
※ どこかで見たことある?便利そうだけどちょっとキモいアクションカメラが登場
※ 360度カメラで家を守り、リモコンにもスピーカーにもなるお洒落な球体
【参考・画像】