車椅子マラソンは通常のマラソンよりもはるかに速い。しかし、ほんの数段の階段でさえ、車椅子で登ることはできない。階段は車椅子にとって、それほど大きな障害なのだ。
それをなんとかしたいと考えるのは自然なことだろう。スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校の学生が“階段を登れる車椅子”を開発した。
階段昇降機能は必要か?
『Scalevo wheelchair』と名づけられたこの電動車椅子、市販モデルではなく、2016年の『Cybathlon』選手権に出場するためのモデルだ。『Cybathlon』とはロボット技術を含む先進的な義肢等を装着したハンディキャップのあるひとたちによって競われる大会だ。
とはいえ、このScalevoのコンセプト自体は「日常に使うことができて、階段を登ることができる車椅子」というものだ。もっとも、テーマとしては魅力的ながら、現実はそう簡単ではなかった。
リサーチの結果、車椅子ユーザーの多くは、階段を昇降する際の危険性への懸念が強かったほか、日常的な使い勝手が損なわれるなら、階段昇降の機能は必要ないと考えていたことがわかったのだ。
日常の使い勝手は損なわない
そこで、開発する車椅子は、ただ階段を上り下りするだけでなく、日常の使い勝手を損なわないことが条件となった。
平らな場所では、前後に移動でき、カーブを曲がることもでき、その場で回転することもできなくてはいけない。ドアを通り抜けることができる幅で、テーブルの下に入り、簡単に乗り降りできないといけない。
さまざまな検討の結果、最終的に“セグウェイ”のように自律的にバランスをとる2輪構造を基本とし、階段を昇降する際には、ゴム製のいわゆるキャタピラを下ろして階段を登るというシステムにした。幅をとらないようにキャタピラは両輪の間、椅子部分の下側に格納される。
これによって、ISO基準に沿った階段(高さ14-21cm、長さ21-37cm)を上り下りすることができるという。
これはこのままですぐに市販される予定はない。まずは『Cybathlon』選手権に出場することが目的だ。しかしいずれはクラウドファンディングによって資金を募集し、より完成度を高めたものを生産することも考えているという。
懸念されるのはバッテリーの持続時間だが、機動力は高そうだ。従来型の車椅子のシンプルさと軽快さは完全にそこなわれるので、幅広く普及するかどうかは疑問だが、ニーズはあるのではないだろうか。
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【参考・画像】
※ SCALEVO