蒸気は、昔から発電や動力として利用されているエネルギーのひとつだ。それこそ、懐かしの蒸気機関車から最近も使われている火力発電用タービンまで、様々なタイプがある。
多くは、石炭や石油、天然ガスなどを燃料にしているが、そういった燃料を一切使わない発電機やエンジンをアメリカ・コロンビア大学の研究チームが発表。なんと『蒸気』と『バクテリア胞子』を組み合わせた新デバイスなのだ。
バクテリア胞子は湿度で伸縮
このデバイスを動かすカギになるのは、バクテリア胞子の特性だ。
研究チームのOzgur Sahin博士によると、「バクテリア胞子は、乾いていると縮み、湿度が上がると伸びる特性がある。そして、伸びる際にモノを押したり引っ張ることができる」という。
この特性を利用して、電力や動力が得られないかと考えた研究チームが、目を付けたのが蒸気。ご存じの通り、蒸気がでれば湿度が上がり、なくなれば湿度は下がる。これに、バクテリア胞子の伸縮特性を利用しようと思いついたのだ。
人工筋肉でデバイスを制作
チームは2つのデバイスを制作。最初に作ったのは発電機だ。
まず、カセットテープのような細くて柔らかいプラスチック製テープの両面に、バクテリア胞子を入れた小さな容器を接着。これは、要は湿度の変化によって、バクテリア胞子が働いて自然と伸縮するもので、ある意味『人工筋肉』とも言えるもの。
デバイスには、この『人工筋肉』をボックスの中にたくさん入れて、上には開閉式のトビラを設置。ボックスの周りに水を貯めてフローティング状態にすると、あら不思議! 上部のトビラが自然と開閉。その開閉の力を使って発電機を稼働し、電力を得るのだ。
トビラ開閉の仕組みは、トビラが閉じた状態では、ボックスの周りにある水が蒸発して湿度が上がり、バクテリア胞子の働きでテープが伸びてトビラを開ける。するとボックス内の湿度が下がって、バクテリア胞子付きテープも縮みトビラが閉じる……といった感じだ。
クルマ用エンジンも開発
チームは、またバクテリア胞子を先端に付けたテープをたくさん取り付けたロータリー式エンジンも制作(この記事の一番上の画像)。
これも、バクテリア胞子の特性により、テープを同一方向に伸ばしたり縮めたりすることで、ロータリーディスク部を一定方向に回転させて推進力を得るというもの。
実験では、エンジンに付けた4つの車輪を、実際に自動で移動させることに成功。まさに、蒸気とバクテリアだけで動くクルマの原型だと言えよう。研究チームでは、今後、これらデバイスを、さらなる電力や動力の供給ができるよう改良する予定だという。
実用化されれば究極のエコに
自然界の大きな力である蒸気と、自然の生物の一種であるバクテリアの組み合わせで、本当に十分な電力やクルマが走れるとすれば、まさに究極のエコだ。
このような、ナノバイオテクノロジーの進歩も、今後見逃せないことのひとつだろう。
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