ボストン大学のDunwei Wang氏率いる研究チームがパワーストーンとして知られる酸化鉄、ヘマタイトとシリコンを使った“人工光合成”に成功したそうだ。
“光合成”については植物が太陽光を利用して地中からの水と大気中の二酸化炭素から栄養となる糖分を生成、その際の副産物として地球上に酸素を供給する作用として広く知られる。
日本が先鞭を付けた“人工光合成”
2001年には国立研究開発法人『産総研』がこの植物の光合成メカニズムを 模倣した“人工光合成システム”を用いて可視光で水を水素と酸素に完全分解することに世界で初めて成功。
これまで科学者の夢とされて来た“人工光合成”は非常に高度な技術で困難とされていたが、遂に実現したという訳だ。
この技術は1960年代末に東京大学の本多健一教授と藤嶋昭教授が発見した光触媒水分解による水素発生研究がベースになっていると言う。
その手法とは可視光応答性のある2種類の光触媒(酸化物半導体粉末)をヨウ素を含む水溶液に溶かし、可視光を照射することで光エネルギーを変換、水から水素と酸素を取り出すというもの。
太陽光と水から水素と酸素を抽出
具体的には酸素を発生させる酸化タングステン(WO3)と、水素を発生させるチタン酸ストロンチウム(Cr、Ta-doped SrTiO3)を光触媒として使用している。
植物は吸収した太陽エネルギーの1~2%、藍藻類は4%程度を利用しているのに対して、0.03%と変換効率が低く、実用化には至らなかったが、その後『NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)』が光触媒に改良を加え、今年5月に人工光合成において世界最高となる変換効率2%を達成した。
今後、光触媒の更なる高性能化を図り、最終的に光エネルギー変換効率10%達成を目指すと言う。
一方、今回ボストン大学の研究チームが成功したとする“人工光合成”では冒頭に述べたとおり、“ヘマタイト”と“シリコン”を使用する。
太陽光下で陽極(アノード)にヘマタイト(Fe2O3)、陰極(カソード)にシリコン(a-Si)をセットして水中に浸す。
ヘマタイトの表面が粗い状態では水分解のパフォーマンスが低下するそうで、滑らかに磨き上げておくことがポイントなのだそうだ。
これにより、発生する電気エネルギーが倍増したと言う。
目指すは「抽出した水素をFCVで利用」
このように“人工光合成”の研究は世界中で技術競争が加速している状況だ。
おりしも、この水素抽出技術は水素と大気中の酸素の化学反応により発電しながらモーターで走行する電動車、FCV(燃料電池車)にとって特に有用な技術となる。
なぜなら化石燃料からではなく、太陽光と水から無尽蔵に取り出した水素を燃料に使うことで“真のクリーンエネルギー車”とな成り得るからだ。
“人工光合成”は新たなエネルギーを生み出すだけでなく、大気中の二酸化炭素を使用することから、“地球温暖化”と“エネルギー問題”を同時に解決する技術として、大いに注目されている。
40年前に日本が先鞭を付けた技術でもあり、国家レベルで水素社会の早期実現を急ぐ日本としては是非ともこの技術でトップを走り続けて欲しいものだ。
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【参考・画像】
※ NEDO
※ 東京大学