アメリカ・ハーバード大学の系列であるブリンガム・アンド・ウィメンズ病院の生物工学の研究チームが、タンパク質をもとにした新しいジェルを開発した。その特徴は、光を当てるとまるで皮膚や血管のような弾性のある組織と同様の特性を示すというものだ。たとえばそれを傷の治療に使える可能性があるという。同病院のウェブサイトで紹介されている。
光で結合を強める
「私たちは、強くて弾性のある材料を、タンパク質から作ることに強い関心を抱いています。なぜなら、人間の身体の中にある組織の多くが弾性を持っているからです。そういった人体の組織を再生するためにバイオ材料を使いたいと思うなら、弾性があって柔軟なものでないといけません。そして、私たちが開発したハイドロジェルは、生体適合性があるポリペプチドから作られ、非常に柔らかく、光によって活性化するものです」と研究者のひとりAnnabi博士はいう。
人間の組織に近い特性を持つゼリー状のハイドロジェルは、すでにバイオ薬品としては幅広く使われている。しかし問題も抱えている。たとえば一部の合成ジェルは、時間がたつと劣化して毒性のある化学物質になってしまう。
あるいは、天然物質で作るハイドロジェルは、十分な強さを確保できず、動脈の血流にたえることができないという。
しかし、今回発表されたELP(elastin-like polypeptide-based)ハイドロジェルは、それらの欠点を補ういくつもの特徴を備えている。まず、光で活性化するポリペプチドを使っているので、光を当てると分子間に強い結合力が生まれ、特に薬品などを加えなくても、十分な強さを発揮する。
出血している部位をシールできる
また、このELPハイドロジェルは、時間が立てば自然発生する酵素によって消化され、少なくとも研究室でテストを行った生体細胞に対しては、毒性を示すことはなかったという。そして、ハイドロジェルが膨張する度合いや、その強さはコントロールすることができ、人体の動脈組織より伸ばしても耐えられるものが作れるという。
「私たちのハイドロジェルは、さまざまなことへ応用できます。細胞が成長するさいの足場として使ったり、試験皿で細胞と混ぜておいてから注射することで細胞の成長を刺激したり。そして怪我をした部位にシール状に貼ることで傷のバリアとして使うこともできると思われます」
「そんな処置ができれば、すぐに出血を止めることができるでしょう。臨床において、非常に可能性がある素材だと思います。私たちの手法はシンプルです。この材料は生体に対して無害です。将来は臨床におけるさまざまな問題を可決してくれることを願っています」とAnnabi博士は話す。
実際に臨床に使うには、もっとこの材料の特性や安全性をテストしなければいけないという。しかし、実用化されれば、これまでにないユニークな治療法が可能になるだろう。
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