我々日本人は、医療保険というシステムを利用している。全居住者から一定額徴収する代わりに、医療に関わる出費を軽減するという制度だ。一般にはこれを「国民皆保険」と言う。
なぜそのような常識をここで述べるかというと、地球上ではこの国民皆保険制度と関わりのない人の方が多数派だからだ。
病気になっても病院に行けない。これほどの苦痛は、恐らく他にない。だが近年経済成長が顕著な国でも、医師の診察すら受けられず、命を落とすということが立て続いている。
ASEAN諸国の中で最も多くの人口を抱えるインドネシアも、例外ではない。国民皆保険制度自体は存在するが、そのシステムは昨年構築され始めたばかりだ。全国民に保険カードが行き届く目処など、まったく立っていないのが現実である。
ならば、我々市民の創意工夫でこの問題を克服しよう。
神にそう誓った若い医師が、ジャワ島東部の都市マランにいる。
とある青年開業医
マラン出身のガマル・アルビンサイドは、1989年9月8日生まれの若い開業医である。だが同時に、国内外で様々な受賞歴を有するエリートだ。
医師としてのガマルのモットーは、「健康に大金を投じる必要はない」というものだ。医師の義務として、全市民が適切な診察を受けられる環境作りを彼は目指している。
インドネシアという国は、実は今でも民間療法の依存度が高い。いや、「民間療法」と言ってはいささか格好が良過ぎる。その実態は効果の定かではない薬草を煎じたり、まじないをしたり、魔術師を呼ぶというものである。決してふざけているわけではない。ジャワ島内でも地域によっては、医師よりも魔術師の方が信頼されている場合も多いのだ。
だが当然ながら、都市部の富裕層はそうではない。彼らは自前の終身保険と入院保険に加入し、たとえ癌になったとしてもその医療費を自らの懐で補うことができる。しかもそれは多くの場合、米ドル建である。経済格差というのは、こういう場面から発生するものだ。
ガマルはそれを少しでも是正するため、『Klinik Sampah』という病院を地元で始めた。この『Klinik Sampah』、直訳すれば「ゴミ医院」である。
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