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「ゴミ病院」が作った未来への道標・・・青年医師の奮闘

ゴミは金なり

ガマルは診察料をまったくの無料にする、という考えの持ち主ではない。患者にもある程度は負担してもらおう。だがそれは現金でなくてもいい。代わりに換金可能なリサイクルゴミをクリニックに持ってきてもらう。累積量をクレジットと見なし、それを診察料に充てるというシステムだ。

月に1万ルピア相当の廃品あるいはゴミをクリニックに持ち込めば、医師の診察を受けることができる。カンやペットボトルなどは、非常に利ザヤの高いゴミだ。

なぜこのような仕組みにするかというと、インドネシアでは市民のポイ捨てにより発生したゴミが社会問題になっているからだ。島嶼国家インドネシアは本来、豊かな珊瑚礁と緑のジャングルで彩られた国である。だが現代の消費文化がおびただしい量のゴミを生み出し、ついには住環境を破壊するまでに至った。今や海にも川にもたくさんのペットボトルが浮かんでいる。

ではそのペットボトルを現金のように扱ってしまおう。ガマルはそう考えたのだ。

2010年から始めたこのシステムは急速に認知され、今やガマルはマランはおろかインドネシアすらも飛び越えて「世界の希望」となった。

 

世界からの注目

2014年1月31日、ガマルはイギリス・ロンドンのバッキンガム宮殿にいた。

彼はこの日、チャールズ皇太子に謁見した。新興国の地方都市の開業医が、世界16の連邦王国の次期君主から表彰を受けたのだ。

ガマルのクリニックには、駐尼アメリカ副大使も訪れている。先進国の要人が、より良い未来の構築のためにガマルの頭脳を求めているのだ。

インドネシアには今までなかった光景が、そこに広がっている。温暖な気候と東西を結ぶ交易の要所という地理上の利点があるため、むしろ人々は「自分たちが積極的にならなくとも何とかなるだろう」という精神を抱くに至った。ゴミ問題も、それは心のどこかで「きっと誰かが片付けてくれる」と考えている表れだ。市民一人一人が発想を変えていかなければ事態は悪化するということに、インドネシア人は最近ようやく気付き始めた。

今年の9月に26歳を迎える青年は、インドネシアが「本当の先進国」になるための道標を立てた。その先の道を舗装するのは市民の役目である。市民が国の行き先を考え、市民が責任を持って実行する。それができてようやく、この国は「民主主義国家」と呼ばれるに相応しい格式を持つようになるのだ。

 

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