普段使う乗用車の多くはフロントエンジン・フロント駆動(FF)である。しかし世の中はリア駆動車、リアエンジンなど組み合わせは様々ある。なぜFFが主流で、スーパーカーにFFがないのか、エンジン搭載位置と駆動方式の関係について、改めて振り返ってみたい。
エンジン搭載位置と駆動方式の変遷
世界初の自動車は蒸気機関を利用しフランスで生まれた。フロントエンジン、フロント駆動のFFである。ガソリンエンジン自動車はドイツ・ベンツが開発。こちらは形状が馬車風でリアエンジン・リア駆動のRRであり、その後の自動車の基礎となっている。
自動車の歴史 | 1885年、世界初のガソリン車、ベンツ パテント・モトールバーゲン発表! http://carlife8.com/h01/h001.html
自動車の歴史はレースの歴史でもある。人気のレースF1は当初フロントエンジン、リア駆動であったが、1960年代にミッドシップ、リア駆動に置き換わる。

路面グリップの高いサーキットではミッドシップ車が主流であるが、ダートや雪道を走るラリーとなると事情が変わってくる。1980年代にはトラクションを余すことなく伝えるため、4輪すべてを駆動する4WDが主流となる。
性能中心か、人・荷物中心か
このようにエンジン搭載位置と駆動に様々な方式があるのは、その自動車が運動性能を高めたいのか、それとも人や物を運ぶ実用性を重んじるのか、といった目的や商品コンセプトによって選択されるからだ。
自動車そのものの運動性能を高めたい、レースで勝つためとなると重くかさばるエンジンはミッドシップ、車体中央に置かれる。
人や荷物のスペースを大きくとりたい乗用車の場合、エンジンは出来れば端に寄せたいため前に寄せると自然とFFに、後ろに寄せるとRRとなる。歴史上誕生した最初の蒸気機関自動車と内燃機関自動車がFFとRRだったのは、この理由からだろう。
自然なレイアウト、フロントエンジン・リア駆動(FR)
ベンツのガソリン自動車開発の後、自動車の主流はフロントにエンジンを搭載し、リアタイヤを駆動するFR車となった。操舵を担当する前輪に荷重がかかり舵がよく効くことや、大きなエンジンを搭載できること、エンジンを縦に置いてトランスミッションを中央に配置、その出力をプロぺラシャフトでリアに伝達してリアを駆動させることから、自然で余裕をもった設計ができることがメリットだ。

一方でトランスミッションとプロペラシャフトを収める空間、センタートンネルが居住空間、トランクスペースを圧迫、空間効率はさほど高くない。また重量物が前に集中、重量配分としてリア側が軽くなりがちなので、駆動(トラクション)性能は他の形式よりも見劣りし、ダートや雪道での走破性は高くない。
革新的なFFの登場
FFはフロントボンネットの中にエンジン、トランスミッションを収め、かつ操舵をするステアリングに対応するため広く曲がるジョイントが必要となる。イギリスの大衆車として登場するMINIはエンジンを横置きし、エンジンとトランスミッションを2階建構造にしてボンネット内に収め、効率のよいジョイントを採用することで高効率の横置きFFを完成させた。このFF構造が優れていたことは、当時モンテカルロラリーでRRのポルシェ911を下して優勝したことからも分かるだろう。

日本車ではホンダがMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)からFFを中心に車種展開。トヨタ、日産も小型車を1980年代に続々とFRからFFへと切り替えていくこととなる。現在ほとんどの小型車、軽自動車がFFなのはこの結果なのだ。
重量バランスとトラクション限界
効率のよいFFであるが、弱点がある。それがトラクション限界である。フロントで引っ張るFFの場合、加速すればするほど荷重がフロントから逃げてリアに移ってしまい、荷重が抜けた駆動輪はスリップしはじめてしまう。これがトラクション限界である。FFで0-100km/h加速が速いスーパーカーが作れないのは、このトラクション限界が理由だ。
この点リア駆動車は有利で、ハイパワー化しても破綻しないのは、加速すればするほどリア荷重が増えてトラクション限界が上がるためだ。
これをグラフ化したものが以下である。

路面のグリップ、摩擦係数μによってトラクション限界、加速可能な限界Gが変動する。
路面がよく、高いグリップ(μ=1.0)の場合、限界加速GはFFが0.5、FRが約0.6、MRが0.75、RRが約0.8Gとなる。
路面が悪く、低いグリップ(μ=0.3)の場合、限界加速Gはどれも0.25G以下となるが、注目したいのがFFよりもFRの方が低い点である。雪道でFRよりもFFの方がトラクションが高いことを体験した人も多いだろうが、これが理由である。
重量バランスとトラクション限界は相関があるが、これを解決する方法がある。それは駆動輪を4輪にする、4WD化だ。
4輪駆動(4WD)化

4WDは前後駆動配分を自由に制御できれば、重量配分はトラクション限界と関係なくなる。常に100%タイヤの性能を引き出せることになるからだ。日産GT-Rは車両重量1740kgあるが、550馬力の出力を効率よくタイヤに伝達することで0-100km/h加速2.7秒という驚異的なタイムを記録しているのはこのためだ。
消えゆくリアエンジン・リア駆動(RR)
2輪駆動としてもっともトラクションをかけられるのがRRである。ポルシェ911の場合約70%の荷重がリアにかかっており、トラクション限界を考えると最良である。

昔はVWビートルといった大衆車、FIAT500などの小型車、軽自動車のセルボ・フロンテでもRRが多くみられた。共通するのは多くが空冷エンジンであるという点だ。その後高出力化や排ガス、騒音対策といった中で水冷化するという流れの中で、エンジンは次々と冷却のしやすいフロントに移されていった。自動車の中で唯一残ったのがポルシェ911というわけだ。
そのポルシェも1990年代に経営危機を迎え、エンジンを水冷化するとともに、ミッドシップのボクスター、フロントエンジン車のカイエンとリアエンジン以外の車種で経営を持ち直した経緯がある。911はポルシェの真髄であるが、経営の屋台骨という点では他の車種に負うところも大きい。
復権するRRとバッテリーミッドシップ
リアエンジンがオールドファッションになったのは間違いないが、RRレイアウトが再び見直されている領域がある。それはEVにおいてだ。
EVでは駆動がモーターであり内燃機関ほど過熱しないため、レイアウトの自由度が大きい。そのため室内空間を大きくとれる、ナチュラルなハンドリング、トラクション限界が高いといったメリットの大きいRRレイアウトをとるものが多い。

最新のテスラ・モデルS、BMW i3がRRレイアウトである。どちらも重くかさばるバッテリーを車体中央フロアにおいているのが特徴で、エンジン車と異なりもっとも重いパーツがバッテリー、前後重量バランスもエンジン車のMRに近いため、バッテリーミッドシップといった方がいいのかもしれない。
まとめ
FFが主流の現在において、パワーユニット搭載位置と駆動方式と運動性能の関係を知るのはなかなか容易ではない。FRが主流だった頃、ドリフト走行は普通の運転テクニックで雪国ではオバさんやタクシー運転手でも当然のように行っていたものだ。今このような駆動方式の違いを簡単に体験できるのは、乗り物としてはRRのカート、そして1/10スケールのRC(ラジコン)だろう。特にRCはFR以外の駆動方式はすべて網羅されているので、運動特性の違いを楽しめる。
【参考・画像】
※ 自動車の歴史 | 1885年、世界初のガソリン車、ベンツ パテント・モトールバーゲン発表!
※ プレミアム・ミッドシップパッケージが実現した、空力という性能。- 日産自動車
※ Beetle Heritage|Volkswagen The Beetle
※ 自動車メカ入門 エンジン編 GP企画センター編 グランプリ出版
※ 車両運動性能とシャシーメカニズム 宇野高明 著 グランプリ出版
※ エンジンのロマン 工学博士 鈴木孝 著 プレジデント社