
バザールでの商品PR
東南アジアの市民は、日頃の買い物を近所の商店で済ませる。スーパーマーケットなどではなく、言ってみれば“お隣の◯◯さんのお店”という感じの零細店舗だ。そうでなければ、どこの町にも必ず一つはあるバザールへ早朝から足を運ぶ。スーパーマーケットというのは、アッパーミドル層以上の豊かな人々のためにある施設だ。
だからこそ、伝統的バザールの情報発信力は絶大である。食品や日用品を生産する企業は、新製品を発売すると同時にバザールへ広報員を派遣する。スーパーマーケットでの商品陳列は、二の次で構わない。どこの国でも実体経済を下支えしているのは庶民、すなわちローワーミドルクラスやワーキングクラスに属する市民である。
ユニ・チャームも、これと同じことをやった。町のあちこちにある零細商店やバザールに営業社員を送り込み、自社製品を置かせてくれるよう頼んだのだ。字面で書けば非常に簡単だが、星の数ほどある零細商店を一件一件訪ねるのは途方もない作業である。
しかも、現地の店舗経営者は数十枚入りのパック商品というものを敬遠する。それよりも1枚ごとの小分けにした方が売れる。東南アジアの市民は、まとめ買いということをあまりしない。その都度、必要な分だけをポケットマネーで買う。それが習慣だ。
ユニ・チャームはその要望に応え、“1枚だけのパック商品”を開発した。これが零細商店やその馴染みの顧客に受け、現地の市場に定着することができた。そうなれば、製品の質で競合できる存在は他にない。今やスーパーマーケットのベビー用品売り場にも、ユニ・チャームの紙おむつが堂々と腰を下ろしている。その様子を眺めていた他の日系企業が、ここ最近になって一斉に動き出した。
市民の声に応じる
ASEAN地域の中でもっとも大きな人口を擁するのは、インドネシアである。同国の巨大な市場を狙って、花王、王子製紙、大王製紙、東レなどが合弁会社設立か、あるいはすでにある現地工場の生産キャパシティー増設に踏み切った。今も伸び続ける需要に、供給が追いついていないほどだという。
インドネシアでは、“子育てはみんなでするもの”という概念がある。筆者も以前、妙齢の女性が赤ちゃんのおむつ替えをしている光景を見て「きみの子ども、可愛いね」と話しかけたら、「何言ってるの。この赤ちゃんは友達の子よ」と返されてしまった。
日本では女性が妊娠しただけで「貞操概念がない」、「仕事をする気がない」などと言われる、いわゆるマタニティハラスメントが問題化している。だが、もしインドネシアで同じことを言えばまず驚愕され、続いて人間関係を絶たれるだろう。“子どもは唯一絶対の神からの授かりもの”である。
だからインドネシア市民は老若男女問わず、日本人の目から見ればかなり子煩悩に映る。しかしそうであるが故に、乳幼児用紙おむつは誰にとっても接する機会のあるものなのだ。
日系紙おむつメーカーは、そんな市民たちの声に応じるという義務を背負っている。企業を強くするものは、実は業績でも年商額でもない。仕事をする過程の中で生じた社会的使命をいかにこなすか、である。企業は常に、末端の市民と共にある。それを忘れてはいけない。
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