IT/テック

五郎丸選手に学ぶ「アスリートとルーティン」見直される勝利のポーズ、ビジネスにも活きる?

ノムさんが変えた投手心理戦

だが競技の中には、ルーティンが命取りになってしまうものも存在する。それは野球である。

「何だって? イチローのあの動きはルーティンじゃないのか?」

そう、打者に限って言えば選手それぞれいろんなルーティンを見ることができる。だがこれが、投手だったら?

例えば、140キロ台のストレートとカーブとスライダーを武器にしている投手がいるとする。3つの球種の中で、彼が最も得意にしているのはスライダーだ。ここぞという時の決め球として、スライダーを投げる確率が高い。

しかし同時に、彼が“スライダーを投げる前のルーティン”を行っていたとしたら? そういう投手は話にならないだろう。それがたとえ些細な仕草でも、相手チームに次の球種を読まれてしまう。

こうしたことを日本のプロ野球で最初に目をつけたのは、“ノムさん”こと野村克也氏である。

野村氏は現役時代、メジャーリーグの伝説の打者テッド・ウィリアムスが書いた『バッティングの科学』という本に出会った。それによると、投手はこれから投げる球種ごとに別々の動作を見せるという。この頃の日本プロ野球は球種を予測するということはせず、あくまでも打者の動体視力が頼りだった。

今では投手に“心理戦の強さ”が求められ、ポーカーフェイスかつノーリアクションであることが最良とされている。だから投手のルーティンは、大抵の場合ブルペンの中で行われる。

ある選手は、リリーフが決まるといつも同じ位置に置いたペットボトルから水を一口だけ飲むそうだ。ペットボトルが少しでも異なる位置に置かれていたら、落ち着かないという。

こうしたルーティンは先ほどの大相撲とは違い、ファンの目の行き届かない場所でのことだ。だがその本質的な意味合いはまったく同じものである。

 

見直されるルーティン

これらのルーティンは、スポーツ史では長い間“差別”を受けてきた。

日本では露骨な定期動作を行えば、「対戦相手への礼を欠いている」とみなされ非難の的にされた。先述の高見盛も、その動きを相撲協会に注意されたほどだ。また、投手がブルペンで行うルーティンも「何であいつは毎回同じことをやるんだ? 気味が悪い」ということで、ルーティン中止令を出す心ないコーチも存在した。

その事情は、アメリカでも同じである。むしろこの国のほうが、日本よりも風当たりが厳しい。相手選手の見えるところで下手な動きをしようものなら、それは挑発と見なされるからだ。野球ならば、挑発の報復として危険球スレスレのいわゆる“ビーンボール”が飛んでくることすらある。

そうしたことから自分のルーティンを捨てざるを得ず、結果的にメンタルコンディションを崩してしまった“犠牲者”は水面下にも多く存在することだろう。

だが、スポーツ界にも時代の波は訪れる。五郎丸歩のルーティンをきっかけに、“メンタルコントロール”という分野が、今後ますます見直されるのではないかと筆者は密かに考えている。