あなたがネット上で相談している相手は、本当に人間だろうか?
──そう問いかけられなければ、相手が人間であることを疑いもしなかった、ということが現実になっていた。
なんと、ジョージア工科大学で生徒達の様々な相談相手となっていたJill Watsonという女性のTA(teaching assistant)が、実はAIであったということに、学生達は気付かなかったのだ。
新たに参加した女性TAの正体
ジョージア工科大学の「Knowledge Based Artificial Intelligence」というテーマの講座では、毎年300人ほどの学生が参加するため、フォーラムでは約1万件レベルの質問が投稿される事態に陥っていた。
この質問や相談に答えるために、8人のTAがスタンバイしているのだが、とても裁ききれないのが現実だったという。
そこでAshok Goel教授は大学院生達と共に、興味深い実験を行うことにした。
9番目のTAとして、Jill Watsonという女性を加えることにしたのだ。但し、Jill Watsonは、IBMの人工知能であるWatsonに与えられたバーチャルな人格だった。
そして、学生達には内緒で、Jill WatsonをTAとして参加させたのである。
そのためにJill Watsonには、事前に4万件にもわたる学生たちからの質問や相談とその回答を学習させておいた。
そして、彼女が97%以上の精度で答えられるようになった2016年1月の段階で、実際に9番目のTAとして学生に対応させ始めたのだ。
学生たちに気付かれないほど見事に人間を演じたAI
さて、3月末から4月末までJill WatsonはTAとして学生達から投げかけられた質問や相談に対応していたが、とうとう学生達(しかもコンピュータサイエンスを学んでいる学生達だ)からは、その正体がバレることはなかったという。
彼女の受け答えは非常に打ち解けた口調で、ポイントもしっかり押さえられていたというから驚く。
そして4月26日に、学生達にJill Watsonの正体がAIであることを明かすと、学生達は大いに驚くことになった。本当に人間が対応していると思い込んでいたのだ。
ただ、一部の学生は、Jill Watsonの回答が非常に素早いことに、違和感を覚えることがあったという。
AIはどこまで人間の代わりを務められるか
この実験で証明されたのは、AIが人間に代わってTAの仕事をこなすことができてしまったということだ。
もちろん、まだ100%完璧な品質の仕事をしたわけではないとのことだが、少なくとも学生達は気付かなかった。それに、人間にだってパーフェクトな仕事は難しいだろう。
Ashok Goel教授はこの後も同様の実験を継続する予定とのことだが、次回は名前を変えるらしい。また、今度は学生達にもTAの中に一人だけAIが混ざっていることは知らせておくという。
そうなると、学生の方にも、AIを見破るための質問を考案する者が出てくるかも知れない。人間とAIが騙し合うと言った知能ゲームが始められる可能性もありそうだ。
今回は、多忙な人間のTAを手助けするAIだったが、性能が高まれば、人間のTAを削減する機会を作ってしまう可能性も有る。
まさかこの仕事は大丈夫だろう、と思っている仕事も、AIに取って代わられる可能性が示された実験だといえるのではないだろうか。
【参考】
※ Artificial Intelligence Course Creates AI Teaching Assistant
※ Imagine Discovering That Your Teaching Assistant Really Is a Robot – WSJ
※ A robot has been teaching grad students for 5 months… and NONE of them realized | Daily Mail Online