
インドネシアは、水と緑に極めて恵まれた国である。だが、最近ではそれが「過去の光景」になりつつある。
現地の自然保護活動家が異口同音に言うのは、「インドネシア人は自分たちが恵まれていることに気づいていない」ということだ。
たとえば、スマトラの雄大な熱帯雨林は世界に誇るべきものである。世界中の学術機関から研究者が押し寄せ、動物の生態調査などを行っている。しかしその熱帯雨林が、アブラヤシのプランテーションを作るために燃やされている。または木々を切り倒し、薪として使ってしまう。
「循環可能の技術」というものを、この国の農業従事者は知らない。
汚染水をそのまま投棄
そんな中、ジャワ島カリサリ村でこのような試みが行われている。
豆腐を作る際に出る排水で、バイオガス燃料を作ろうというものだ。
インドネシアでも、大豆の加工食品が盛んに生産されている。その中でも豆腐は、生産過程で多くの水を必要とするものだ。だが酢酸が加えられた水は、その後の処理もなく単に川へ投棄されていた。
我が国日本は徳川家康の江戸開府以来、上水の供給と排水の処理に力を注いできた。だがそのような国は、国際的にはむしろ少数派である。ヨーロッパでもほんの100年前までは「汚れた水はそのまま川に流す」というものだった。
だが、もはやそのような前世代的態度は改めるべきだと、インドネシア国内でも声が上がっている。
すでに実用化されている
カリサリ村の豆腐業者が出す排水にバクテリア処理を施すだけで、ガスが発生する。字面で書けば、ただそれだけだ。
このバイオガスは、すでにカリサリ村の100世帯に供給されている。将来的には村全体の電力を、バイオガス由来のものに置き換える予定だという。
また、排水を出さないようになると水路の汚染も解決し、結果的に農業用水の清浄化にもつながる。現に農作物の収穫量は、バイオガス生産が始まってから増えているという。
さらに、この試みが発展すれば国家による都市開発計画にも影響する可能性がある。
陸軍とインフラ整備
ところで、インドネシアは「陸軍の発言力が強い島国」である。これはどういう意味をもたらすのか?
現在のインドネシアの構成する島々は、どれも火山島だ。つまり標高が高い。その辺りは日本と同じ「山岳列島」なのだが、そういう地域はインフラ整備が極めて難しい。
だからこそ、海軍ではなく陸軍の影響が強くなる。駐屯地は周囲の村々にインフラをもたらしてくれるからだ。日本でもかつては「陸軍誘致運動」というものがあり、静岡市は駿府城を更地にしてまで連隊を呼び込んだ。
そういうことが、今のインドネシアにも起きている。だから都市開発計画における陸軍の発言力は、非常に強大だ。
だがそれは、陸軍が興味を示さない土地にはインフラがやって来ないという意味でもある。そのような地域は、どうすればいいのか?
カリサリ村で行われていることは、まだ「答え」という段階ではないかもしれない。しかしそれが重要な「ヒント」であるということは、どうやら確実らしい。
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※ Nature Free Photos & Stock Images – Visual Hunt
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