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雑音中毒者が多すぎる〜トーマス・エジソン【科学者の智慧 vol.02】

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SOURCE:https://en.wikipedia.org/wiki/File:Thomas_Edison2.jpg_

 

トーマス・アルバ・エジソン(Thomas Alva Edison)……1847~1931。アメリカを代表する発明王。蓄音器、白熱電球、映写機など生涯に1,000以上(一説には1,300以上とも)の発明を生み出した。

 

ハンディキャップの克服というより……。

「エジソンは難聴だった」というのは有名な話だ。日本人好みの教訓伝記だと、どうしても「ハンディキャップを超人的な努力で克服した偉人」ということになってしまうのだが、エジソンについて調べていくうちに「どうもそういう教科書的なタイプの人ではなさそうだ」と思うようになった。

エジソン研究の入門書に好適な「快人エジソン(浜田和幸著:日本経済新聞社)」という本がある。エジソンが送った手紙や自らについて語ったことが多数収録されていて興味深い。この本によれば、エジソンは「ハンディキャップを克服した」というより、そもそも難聴なんてたいして気にしていなかったようなのだ。

たとえば、こんな述懐がある。
「今は時々二、三の言葉が聞き取れる程度。雑音が耳に入らないおかげで読書に没頭できる

「ベルの発明した電話は私には音が聞こえなかった。だから使いものになるように改良してやった。その技術をウエスタン・ユニオン社に売ったら、それがベルに転売された」

ハンディキャップを成功のバネにしたといえなくもないのだが、そもそも天才・エジソンの前には、難聴など取るに足らない雑事でしかなかったのかもしれない。

 

無意味な話に耳を傾ける時間があったら読書をするべき

エジソンは「天才は99%の努力と1%のひらめき」など数々の名言を残しているけれど、僕がいちばん印象的なのは次の言葉だ。
「無意味な話に耳を傾ける時間を読書にあてる人がもっと多ければ、この世はもっと住みよい場所になっているに違いない。麻薬中毒と同じで、雑音中毒になっている人があまりに多いのではなかろうか」

どうだろう。わずかな空き時間にもすぐスマホを取り出し、メッセンジャーアプリやSNSをチェックしなくては気が済まない現代人には耳が痛い言葉ではないか。
エジソンはくだらない世間話や噂を聞きたがる人を軽蔑していたようだが、私たちはわざわざ最新技術の塊であるスマホと、世界でもっとも貴重な情報インフラであるインターネットの膨大なリソースを「くだらない世間話や噂話」に浪費している。
皮肉にも、スマホやインターネットにつながる技術の多くは元をたどればエジソンの発明に深く関係しているのだが。

 

発明王はいかにして20歳年下の娘と再婚したか?

エジソンは生涯に二度結婚した。
先妻に先立たれたエジソンは、38歳の時に出会った18歳の少女に電撃的な恋をした。
彼女の名はマイナ。高名な発明家の娘だった。

エジソンは「耳が悪いので」少女の言葉を聞くために彼女の口元に耳を寄せた。そして顔が触れるほどの至近距離で熱烈に愛をささやいた。
マイナはそれを「なんて情熱的な人!」と受け止め、20歳という歳の差を超えてついにプロポーズに応じた。ちなみに「プロポーズは言葉ではなくモールス信号だった」というエピソードがいかにもエジソンらしい。

マイナは裕福な社交や芸術を好んだ。自宅でピアノ演奏を披露することもあったらしい。
エジソンはしばしばピアノに歯を当て、骨伝導でピアノの響きを聴き取っていたという。骨伝導は蓄音機を発明する際にも役立ったようで、だから彼の蓄音機には歯型がついている。

偉大な夢は時代を超える

エジソンはベートーベン、ヴェルディ、ヨハン・シュトラウスなどを好んだ。そしてマイナに「いつか第九(ベートーベンの交響曲第9番)を完璧に録音できるレコードを発明する」と誓った。
第九の演奏時間は指揮者によって異なるが、カラヤンなら約66分、第九の名指揮者として知られるドイツのフルトヴェングラーだと約74分かかる。エジソンの時代のレコードには到底無理な時間だった。

エジソンの夢は、1982年に登場したCD(コンパクトディスク)によって叶えられた。
CDの最大録音時間は約74分。フルトヴェングラーの第九がぴったり収録できる時間だった。
真に優れたアイディアは時間を超越して人を動かし、はるか未来に実現することがある。
エジソンの没後50有余年、ようやく時代が彼に追いついたのだった。

僕たちもたまにはスマホを置いて、雑音に惑わされず読書に励み、エジソンのように時代を超えるアイディアを練ってみようじゃないか。

※書籍「快人エジソン」からは要約引用。正確な表現については原著をご参照ください。
(ヒサカタ・ハルカ)

【参考】
※ 快人エジソン 奇才は21世紀に蘇る 浜田和幸(日本経済新聞社)

※ コーンフレークは●●行為防止のためにケロッグが発明した!?発明王のトリビア3選 – Spotlight

※ Sony Japan | Sony History 第8章 「レコードに代わるものはこれだ」

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー – Wikipedia

※ ラトガーズ大学 The Thomas Edison Papers

※ 人類史上初の録音がyoutubeにあった。トーマス・エジソンが自らの声で録音した「メリーさんの羊」

※ News Act エジソンの名言「天才とは1%のひらめきと 99%の努力である」は誤訳だった?彼が本当に伝えたかった事とは?