FUTURUS編集部がお届けするカンヌレポート第3弾は、
「スマートデバイス(情報端末)」がテーマ。
人工知能(AI)を人類の「未来」を変える技術とするなら、「今、まさに」世界中の人々の生活をアップデートしているのが、スマートデバイスだ。
2016年、全世界スマートフォンの契約は40億件に
エリクソンによると、2015年のスマートフォン契約数は34億件。10億件を超えたのがわずか3年前というから、その爆発的な普及スピードが伺える。今年中には、40億件を超える見通しだ。
この爆発的な普及を支えるのが、発展途上国市場。格安Androidの登場によって、多くの消費者がインターネットを通じて世界中とつながることが可能になった。
今回は、そんなスマートフォンをはじめとするスマートデバイス(情報端末)が、さまざまな人々の生活をアップデートした事例を世界最大の広告祭『Cannes lions International festival of creativity』の入賞作から紹介したい。
痒いところに手が届く、スマートデバイス
まずは、エクアドルのガス機器メーカーMABEの事例「GASCALE」から。
家庭用のガスには、大きく2種類が存在する。都市ガスとLPガスだ。都市部においては、備蓄棟(ガスホルダー)から導管を通って各家庭に供給される都市ガスのシェアが高く、資源エネルギー庁の発表によると、東京都での普及率は100%を超える。一方、農村部では普及率が低く、最も普及率の低い沖縄県では36%という状況である。
この状況は、発展途上国においてはもっと顕著で、南米エクアドルにおいてはほとんどの家庭がLPガスを使っている状況である。そんなLPガスには、細かなことだが、なかなか厄介な悩みがあった。
それは、「ガスボンベの残量が、外からではわからない」ということ。
金属製のガスボンベは、室外に設置されているのが一般的なうえ、見た目ではどれだけガスが残っているかが判断できない。そのため、お風呂や料理の最中にガス切れを起こしてしまうということが頻発していた。
そこで、MABEが、LPガス専用のスマートデバイスを開発。これは、ガスボンベの下に専用のスマートデバイスを設置するというもので、構造はいたってシンプル。
機器の中に「重り」が搭載されており、重さによってガスの残量を検知し、スマートフォンに情報を飛ばすというものだ。
さらに、残量が少なくなったときにはタップひとつで楽に注文をすることが可能。この商品によって、MABEはガスボンベのセールスを大きく向上させることに成功した。
目が見えない方のための、スマートウォッチ
次に紹介するのは、INNOVATION部門でゴールドを受賞したアイデア。
続いては、「Dot」というベンチャー企業が開発した、そのものズバリ、「目が見えない方専用のスマートウォッチ」。これまで、目が見えない方の腕時計は「音とバイブレーション」で時刻を伝えるしか方法がなかった。
だから、大まかな時間は知ることができても、秒単位の把握は難しかったし、一々大げさな挙動を強いられていた。
そこで、このスマートウォッチは表示板に「点字」を上げ下げすることで、音を立てることもなく、時刻を伝えることを可能にした。
それだけに留まらず、スマートウォッチならではの機能として、スマートフォンと連携し、地図やメールの内容などを点字で表示することも可能。
このモデルはコンセプトモデルでなく、2016年後半に、290ドルという手が届く値段で発売予定ということだ。
セキュリティしてますか。を、安価に実現
次の事例は、これまで高価だったサービスをスマートデバイスによって非常に安価で提供可能にしたアイデアだ。
ホームセキュリティシステムは、不在時においてもハウスオーナーにとって大きな安心を与えるものだったが、その対価として高価な費用を必要としてきた。
ブラジルで発売されたこの小さなデバイス「WIFIALARM」は、wi-fiが飛んでいるところであればどこでも設置可能なスマートセキュリティ・システム。
お出かけ時などに専用アプリからシステムをオンにすると、wi-fi電波に干渉するものが感知されるとアラートが飛ぶ仕組みになっている。
ブラジルにおいて監視カメラの平均価格はおよそ36,000円。それに対してこのデバイスは、約9,000円で発売され、「安心」のために必要なコストを大きく低減させることとなった。
枯れた技術の水平思考
かつて『ゲーム&ウオッチ』『ゲームボーイ』など数々のヒット商品を生み出し、任天堂の歴史に大きく貢献したゲームクリエイターの横井軍平氏は、「枯れた技術の水平思考」という独自の開発哲学を持っていたという。
これはつまり「ありふれた技術を本来の使い方から目線をずらし、全く別のものに転用することでヒット商品を生み出す」発想方法だ。
我々日本に住まうものにとっては、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスはもはや「あって当たり前の存在」。だが、そんな状況だからこそ、日本に留まらず、世界中の人々の生活を変えられるチャンスがある。スマートデバイスが「世界を」イノベーションするのは、まさにこれからの時代なのだ。
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