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これは生物かロボットか。ハーバード大学が作り出した人工のエイ

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Photo credit: marfis75 via Visual Hunt / CC BY-SA

その透明な、体長が2センチに満たない小さなエイは、光りを当てるとそちらに向かって泳いでいく。

その波打つようなヒレの動かし方や泳ぎ方は、どう見てもエイだ。

しかし、よく見ると目も口も無い。しかも透明な体の中心部に有るはずの骨は、金属だ。

実はこのエイは米ハーバード大学の研究者らが作り出した人工のエイ。しかも泳ぐために動いているヒレは筋肉で動いているという。

これはいったい、生物なのか、ロボットなのか。

金属の骨格に生物の筋肉

米ハーバード大学の生物工学者であるKevin Kit Parker氏は、20人の研究チームを率いて人工の有機体を柔軟に動かせることを証明する実験を行った。

それは、エイのようにヒレを波打ちながら泳ぐ物体だ。物体と書いたのは、これは生物とは呼べそうにないし、かといってロボットとも呼びにくいからだ。

いずれにしても、研究室で人工的に作り出された物体だが、筋肉細胞を使って泳ぐことができる。しかも青い光に向かって泳ぎ、上手く誘導すれば障害物も避けて泳ぎ続けることができる。

本稿ではこの物体を、人工エイと呼ぶことにしたい。

この人工エイは本物の生物であるアカエイをモデルにして10分の1のスケールで再現している。重さは約10グラム。

人工エイは柔軟性のある金の骨格を持ち、シリコン樹脂を貼り合わせた構造で作られているが、ヒレにはラットの生きた心筋細胞が20万個配置された層がある。

遺伝子組み換えと細胞組織の巧みな配列で動くヒレ

人工エイに使われているラットの生きた細胞は、心臓本来の自発的な収縮と拡大を繰り返さないように、藻類の遺伝子を加えて組み換えられている。遺伝子の組み換えにはウィルスが利用された。

その結果、特定の波長の青い光を浴びると収縮するように性質が変えられているのだ。

ヒレが動く仕組みは、光に反応して筋肉が収縮するとヒレが下に動き、弛緩すると金属が形状を維持しようとする力でヒレが上に戻るというものだ。

この筋肉細胞をエイのヒレの筋肉と同じ様に放射状に配置し、細胞が時間差で収縮することでヒレが波打つように動く。

この人工エイの筋肉は、光の周波数によって収縮速度が変わるため、左右のヒレに異なる周波数の光を当てると、曲がりながら泳ぐようにコントロールできる。

人工エイの開発で目指すものとは

研究チームがこの人工エイを作るのに3年ほどかかっているが、今では1週間もあれば作れるようになっている。

このような生きた細胞組織を利用した機械やロボットの研究は、現在急速に活発化しているという。

そのような研究が何に役立てられようとしているのかというと、例えば今回紹介したこ人工エイの開発から得られた知見は、人工臓器の開発に活かせるとされている。

あるいは生体組織と電子機器を合体させたハイブリットなロボットの開発にも繋がりそうだ。

将来、目の前で動いている何らかの装置が、実は生物の筋肉で動いているとしたら、何やら気味が悪いが、医学の分野などでは、新たな治療方法へのブレークスルーをもたらすのかもしれない。

【参考】
Robotic stingray powered by light-activated muscle cells | Science | AAAS

This robo-stingray made from rat heart cells is controlled by light | WIRED UK