
ヴォルフガング・エルンスト・パウリ(Wolfgang Ernst Pauli)……1900~1958。スイスの物理学者。「アインシュタインに並ぶ大天才」と称され、「パウリの排他律」の発見でノーベル物理学賞を受賞。ほかにスピンの理論などで現代化学の基礎に大きく貢献した。
辛辣な完璧主義者
パウリは完璧主義者として知られる。ほかの学者に対してしばしば辛辣な攻撃をすることでも有名だった。論文の間違いを見つけると、体を左右に揺らして頭を振りながら(不機嫌なときのパウリの癖)「まったく間違っている!(” ganz falsch”)」と全否定することもあった。
ある若い物理学者の論文に対して、
“Das ist nicht nur nicht richtig, es ist nicht einmal falsch!”
(英訳: “Not even wrong.” 日本語訳:「この論文は間違っているどころか、間違ってすらおらんね」)
と評したことがある。「正しいとか正しくないとか以前の問題だ」とつっぱねているのだ。
(訳:FUTURUS編集部)
ユングに傾倒し、神秘主義者となる
ただし、パウリが傲慢な学者だったという記録は見当たらない。むしろ、物理学(量子力学)に対してこの上なく真摯だったからこそ自分にも他人にも辛辣だったという見方が強い。
また、それと同時に「自分を極限まで追い込んでしまい、何かに依存する」という完璧主義者にありがちな人間的弱点も持ち合わせていたように見受けられる。
1930年、結婚に失敗したパウリはひどく精神的に落ち込み、酒びたりになった。近所の精神科医の診察を受けたが、この精神科医がたまたま分析心理学の祖、カール・グスタフ・ユングだった。
パウリとユングはシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)について議論を重ね、それを『原子と元型』という本にまとめたこともあった。どうやらパウリはユングに強い影響を受け、神秘主義に傾倒していったらしい。
さて、「137」という数字がある。これは微細構造定数の逆数であり、「物質一般の構造にもっとも重要な影響を及ぼしている」とされる定数だ。
「137という数字に何か必然性があるのか?」
パウリは生涯にわたって137という数の意味を問い続けたが、ついに解明できなかった。
ちなみに、晩年のパウリがすい臓がんで入院した赤十字病院の病室は137号室。
それに気づいたパウリは「意味のある偶然の一致」を感じ、「自分は生きてこの病室を出ることはないだろう」と悟ったという。
そしてパウリはその137号室で58年間の生涯を閉じた。
【参考】
※ 『137ー物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯』 – 金子務公式サイト
※ 書評:「137 ~ 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯」 アーサー・I・ミラー – タイム・コンサルタントの日誌から