
コンコルドという旅客機が、かつて存在した。
この機体は初就航当時は「夢の超音速機」と呼ばれ、これこそが次世代の旅客機であるともてはやされた。ところがフライトにかかるコストがあまりにも高く、また2000年に発生した墜落事故も相成り全機退役を余儀なくされた。コンコルド以降、超音速で空を飛ぶ旅客機は出現していない。
ところが今年に入り、CNNがこのようなニュースを配信した。
ニューヨーク−ロンドン間を、実に11分という短時間で飛行するというものらしい。
マッハ24で飛行!?
まずはCNNの記事から冒頭部分を引用させていただこう。
工業デザイナーのチャールズ・ボンバルディア氏は、マッハ24で空を飛ぶ超音速旅客機のコンセプトを発表した。地球の真裏を意味する「アンティポード」と名付けられたこの旅客機。10人の乗客を乗せ、英ロンドン−米ニューヨーク間を11分で結ぶという。(CNN 2016年1月18日付の記事より引用)
当然ながら、このような怪物機が近日就航するという話題ではない。要するに「こんなプランがあるんだけど、他にいい案は何かないかな?」と世界のエンジニアに問いかけるコンセプトで提唱されたものらしい。
だがそれにしても、ロケットブースターで機体を高高度に引き上げるというコンセプトはどこかで聞いたことがある。また、CNNの記事にもある機体画像も、我々人類が初めて見るようなデザインではない。
そう、すでに半世紀以上前にこのような飛行機が存在したのだ。
ヒトラーの隠し駒
第二次世界大戦当時、ドイツ軍は『メッサーシュミットMe163』という戦闘機を実用化させていた。
これはヴァルター式ロケットエンジンを搭載したもので、軍用機がまだレシプロエンジン機主体だった頃に時速960kmという性能を叩き出した妖怪である。当時ヨーロッパに展開していたアメリカ軍のB17爆撃機の最高速度は、430km程度である。Me163のパイロットから見れば、B17など空中で停止しているも同然だった。
テスト飛行の結果に狂喜乱舞したヒトラーは、Me163の大量生産を命じた。旗色が悪くなり始めたこの男にとって、Me163は戦局を大逆転する「救世主」に見えたのだ。
だが、このMe163は問題が非常に多かった。まずロケットエンジンの稼働時間は最大8分程度で、そこから先は滑空飛行である。こうなると遊覧用のグライダーと大して変わらず、敵戦闘機の餌食になってしまった。
また、Me163に使用される混合化学燃料は危険な代物だった。「触ると身体が溶ける」と言われていたほどだが、実際にこの燃料の取り扱い中に悲惨な事故が相次いだ。だから燃料の製造には、ユダヤ人が多数動員された。
結局、この兵器はヒトラーの期待通りの戦果を挙げることはなかった。アメリカ軍も「Me163は航続性能に問題がある」と分かると、その配備拠点を迂回した爆撃コースを設定した。
こうして人類初のロケット戦闘機は、闇の中に消えた。
戦闘機から旅客機へ
ところが、機械にも「DNA」というものがあるらしい。
コンコルドよりも速い旅客機を開発しようと思い立った人物が、試行錯誤を重ねる中で結局Me163と瓜二つの機体をデザインしてしまったのは歴史の皮肉である。
こうしたことは、これからも発生するだろう。それは結局、「人間の考えること」は今も昔もさして大差ないという証明でもある。だが、Me163が兵器なのに対しアンティポードは旅客機である。
「軍事技術の平和転用」という言葉の意味合いを、我々はもう一度考えてみる必要がある。
【参考】
※ NY−ロンドン間を11分 夢の超音速旅客機誕生か−CNN
【動画】