交通事故や戦場などで大きな傷を負った場合、外傷に関してはさまざまな止血法がある。それに対して、身体の内部の出血に関しては、外科手術がほぼ唯一の止血法になるそうだ。しかし、外科手術がそう簡単ではないことは容易に想像できるだろう。
そこで、パンク修理剤のように、注射によって止血をする方法の研究が、アメリカ化学会の会合で発表された。

傷口に集まって出血を止める
研究者が発表したのは、傷口に集まって血液を凝固させる働きをするナノ粒子だ。それはすでに生体の血管における実験で有効性が確認されているという。
「身体内部の出血があり、それをコントロールできない状況こそ、この粒子がもっとも違いを生み出すときです」と研究者のひとりエリン・B・ラビック氏はいう。「この粒子を使わなかったケースと比べれば、出血時間は半分に抑えることができ、出血量も抑えることができます」。
ラビック氏らの研究チームは、活性化血小板をくっつけて凝固させる働きをするナノ粒子を開発した。そのナノ粒子は、活性化血小板にのみ見られる糖タンパク質にくっつく分子をまとっている。

まずは齧歯類でテストを行って好結果を得たが、とうぜん人間にとって安全化どうかが問題になる。そこで、人間の前のステップとして豚の血液で免疫反応を見ることにした。もしこの処置が免疫反応を引き起こすとしたら、副作用が出る可能性が高くなるからだ。残念なことに最初のテストでは免疫反応を引き起こしてしまった。
その後、さまざまな電荷の粒子を使って、免疫反応を起こさないものがないかどうかを調べた結果、電荷が中性のものがベストであることがわかった。しかし、その粒子にも問題があった。注射する前に、もう集まってしまいがちな傾向があったのだ。けっきょく、ナノ粒子を保管する溶液に、滑りやすいポリマーを加えることで解決したという。
今後、人間の血液での実験へ
また、あわせて、ナノ粒子が摂氏50度まで安定した性質を保つように開発を行った。温度が上がる救急車の中や、蒸し暑い地域の戦場でも使えるようにするためだ。
今後は、人間の血液を使ったテストも行っていく予定だ。梗塞を起こすことがないよう、予定しない凝固が起こらないかどうかなども確認する必要がある。ラビック氏は、5年から10年以内には臨床で使える製品を開発できるのではないかという希望を持っているという。
重大な外傷は、子供やヤングアダルトの主要な死因のひとつになっている。にもかかわらず、身体の内部の出血に関しては、医師がとれる選択肢は少ないという。こういった薬剤の開発で、不慮の事故で亡くなる若者が減るといい。
まったく余談だが、タイヤがパンクした場合、液剤を注入するタイプのパンク修理剤は、最後の手段と考えて、できればあまり使わないほうがいい。というのは、タイヤやホイールの内側にベトベトに付着し、その後にタイヤ交換をする際の作業が非常に大変になってしまうからだ。
【参考・画像】
※ Nanoparticles that speed blood clotting may someday save lives – American Chemical Society
【動画】
※ Nanoparticles that speed blood clotting may someday save lives -YouTube