ポルシェ911ターボより速い!とセンセーショナルな話題をふりまいた電気自動車“Eliica”の登場から12年。
日本の電気自動車開発の草分け的存在である清水浩氏は、現在も究極の電気自動車を追い求め続けている。
全4回にてお伝えする電気自動車の真実と未来。
第2回は、電気自動車とインフラと太陽エネルギーの密接な関係についてお話を伺った。

未来社会を花開かせる、自動運転という“種子”
――バスなどの集団移動の手段がなくなって、たとえば自動車が1人1台の時代になると、いまよりも自動車の台数は増えるのではないかとも思います。そうすると、渋滞も増えるのではないですか?
渋滞が起こる最大の原因は、クルマとクルマの間隔が開きすぎることです。自動運転になれば、車間距離を10cmほどに保つことも可能です。その場合、計算上は、同一時間内に「1車線の道路で車移動できる人数」と「満員電車1本が運べる人数」がほぼ同数になります。満員電車で間欠的に運ぶのと、自動車が連なって運ぶのは同じ容量の人が運べるということです。
私たちe-Gleが考える自動運転にはそれほどの大量移動を実現する効果がありますから、よほど多くの人々が集まるイベントなどでない限り、渋滞は起こらないと考えられます。これは、極めて大きな社会変革になるはずです。

――自動運転にとって、内燃機関自動車よりも電気自動車のほうが、親和性が高いのでしょうか。
かなり高いと思います。1台で走る場合にはあまり差はありませんが、複数台が車間間隔を縮めて走る場合には、各車の加速やブレーキのタイミングが一致しなければなりません。そのような制御が必要だと考えると、必然的に電気自動車のほうが適しています。
――個々のクルマ単体でのコントロールはもちろん、交通網全体も俯瞰してコントロールするという概念が必要になってきそうですね。
その通りで、かなり大規模なシステムが構築されると思います。国全体で一括コントロールするか、もっと小さな単位になるかはまだわかりませんが、交通情報が確実にやり取りされる仕組みが必要になるでしょう。
社会インフラも進化させる
――社会インフラの進化という意味では、道路のあり方も大きく変わっていくような気がします。
道路の概念も変化していくはずです。私は、自動車というものは、乗り物としての合理性やクルマ自体とタイヤの性能から考えて、時速100km/hまでは安定走行に問題が生じないと考えています。しかし、現実的には、一般道は歩行者も利用します。そのため、一般道を歩道と車道に完全分離するといったインフラ整備が必要になるでしょう。
――いまよりも、かなり幅が広い道路が必要になるわけですね。
必ずしもそうではありません。日本では、クルマが走行する道路は、最低でも片側1車線で6mの道幅がとられているのが一般的です。それ以下の場合は、「クルマが通るには狭い道」だといえます。
その前提で、6m幅の道で考えた場合、中央の3m分を自動車専用の一方通行路にして、左右に1.5mずつの歩道をつくる方法などが考えられるでしょう。そうすれば、100km/hで走行する自動車と歩行者が安全に共存できます。
ただし、現実問題としては将来的にも、道幅が狭い道も存在すると考えられます。そのような道は人間とクルマの混合交通として、クルマは6km/h以下で自動走行するようにコントロールすればよいと、私は考えています。自動車道は、「100km/h以下ゾーン」と「6km/h以下ゾーン」の2つに分かれるわけです。
――かなり大がかりなインフラ整備が必要になりますか?
一般的に、高速道路を1kmつくるのに20億円ほどかかると言われますが、既存の道路を歩車道分離する場合は、その1/100ほどのコストで済むと思います。何よりも、道路をつくるうえでもっと問題になる「土地の取得」が不要なので、実現の可能性は高いかもしれません。
環境問題もエネルギー問題も解決し得る潜在能力
――電気自動車といえば、やはり、現在世界中で懸念されている環境問題を解決する手段としての期待も大きいと思います。各国での自動車と環境問題との現状は、どのようになっていますか?
アメリカでいえば、国内最大の自動車市場といわれるカリフォルニア州で、ZEV(Zero Emission Vehicle)規制が強化されています。ZEVとは「温室効果ガスを一切排出しない電気自動車と燃料電池車」のことで、2018年以降のモデルに関して、各自動車メーカーは同州内で販売される台数の一定比率をZEVにしなければなりません。
EUでも、CO2排出規制がどんどん厳しくなっていて、2021年までのCO2排出量の大幅削減を自動車メーカーに対して課しています。日本国内に関しては、まだ厳しい規制が存在しないというのが現状です。
――グローバルに展開する自動車メーカーとしては、ガソリン車からZEVに切り替えるしかないということですから、ますます電気自動車の必要性は高まりそうですね。電気自動車とエネルギー問題の関係については、どのようにお考えですか?
まず、電気自動車の特長の一つとして、ガソリン車と比べて桁違いにエネルギー消費が少ないことが挙げられます。これは、地球のエネルギー問題を解決し得る非常に大きなポイントです。
さらに、将来的にエネルギーは太陽光発電が主流になるというのが私の考えです。地球の陸地面積の1%に太陽光電池を設置すれば、全世界の約70億人全員が必要とする電力をつくり出せるともいわれます。その電力を蓄えた電池を、電気自動車でも使えばよいのです。
太陽光発電とのコンビで、世界中の子どもたちの夢もかなえる

――太陽光発電を利用すれば、電気自動車はエネルギー問題を解決するための、かなり有効な手段になりますね。
その通りです。また、もし太陽光発電が定着すれば、世界中の人たちが等しくエネルギーを使えるようになります。それによって生活が安定して、世界中の人たちが等しく自分の乗り物に乗れる時代が来るはずです。
私は子どもの頃からクルマが好きでしたが、その当時の1950~60年には、自分が大人になってクルマを持てるなんて思ってもいませんでした。開発途上国の子どもたちは、いままさに、昔の私と同じように感じているかもしれません。
日本でクルマがごく日常的な乗り物になったように、世界中で誰もが自分のクルマを持っている。そんな社会をつくりたいという想いで、私はe-Gleの電気自動車開発を続けています。
さまざまな業界・分野で新たな産業革命も
――ビジネスという観点では、電気自動車や自動運転化がどのような変化をもたらすとお考えですか?
いままでお話してきたように、電気自動車は人々の生活や社会を大きく変える可能性を秘めています。通信業界を例に挙げると、固定電話以外に携帯電話が登場し、それがスマートフォンへと進化するなかで、通信ビジネス自体も想像を超えるような変化を遂げてきました。電気自動車、さらに自動運転が普及すれば、通信・電話分野よりもさらに多岐にわたる産業で革命が起こるかもしれません。
――特に自動車産業は、大きく様変わりしそうですね。
技術に関しては、当然、かなりの変化が起こると思います。また、1人1台の時代が来れば、販売台数を含めてマーケットも飛躍的に拡大するでしょう。さらに、車体デザインの自由度が高いという電気自動車の特性を活かして、さまざまな形のクルマが生まれる可能性もありますね。
それ以外に、電気自動車を「端末」として使ったニュービジネスが生まれる可能性もあります。スマートフォンにたとえると、端末自体のメーカーだけでなく、携帯電話キャリア、アプリなどのソフトウェア業界、Webサービスを提供するプラットフォーム産業などが誕生・活性化したように、電気自動車を中心にした数兆円規模の周辺産業も生まれるかもしれませんね。
――ほかには、どのような業界で変革が起こりそうですか?
物流業界が劇的に変わると思います。現在は、熟練したドライバーの人件費が配送コストの大半を占めているといわれます。そのため、ドライバー1人で大型トラックに大量の荷物を積んで一度に配達するのが一般的です。しかし、自動運転型電気自動車ならば人間の運転技術への対価が不要になりますから、より効率的かつ高速で、ユーザーメリットも大きい「小型車での小口配送」へと変わっていくと思います。
――なるほど、自動運転になれば、誰でも“運転”ができるということですね。
そうです。たとえば、病気やケガをしていても自分で病院に行けますし、自分のクルマに乗ったまま治療を受けられるようになるかもしれません。また、物理的には、幼児でも高齢者の方でも運転ができますから、運転中はもちろん、歩行中の交通事故などの心配もなくなります。
ほかにも、いまの私たちでは想像もできないような利用法が生まれる可能性が高いので、とんでもない社会革新や産業革命が起こるかもしれないですね。(了)
【第1回】伝説の電気自動車“Eliica”生みの親に聞く、電気自動車の真実と未来
【第3回】あの「最速ポルシェ」を超えた加速力を体験!? 最新世代の電気自動車を試乗!
【第4回】 “長生き”を実現するクルマ社会を目指して
【取材協力】
清水浩●株式会社e-Gle代表取締役社長。慶応義塾大学名誉教授。工学博士。1947年、宮城県仙台市生まれ。75年、東北大学工学部博士課程修了。76年、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入所。79年電気自動車の研究開発に着手。82年、アメリカ・コロラド州立大学留学。97~13年、慶応義塾大学環境情報学部教授。2013年に退職し、電気自動車とエネルギーを研究開発する株式会社e-Gleを設立。04年に発表した8輪電気自動車“Eliica”が大きな話題を集めた。