
血液の中で自在に動けるマイクロロボットができれば、身体の特定の場所にピンポイントで薬剤や細胞を運ぶことができるようになる。そんな医療の実現に一歩近づくことができるような、ゾウリムシ型のマイクロロボットを、韓国のテグキョンブク科学技術院の研究チームが発表した。
血液の中では微生物の動きが向いている
Hongsoo Choi教授ひきいる研究チームが開発したのは、ゾウリムシのような繊毛の動きを推進力とするマイクロロボットだ。
人間の体内のような粘度の高い液体の環境では、人間くらい大きな動物が泳ぐときに使う慣性を利用した左右対称のオール動作のような動きは推進力を生み出すのがむずかしいのだという。そのため、微生物は、旋回運動や漸進的な波の動きや、非対称の往復運動的な動きによって、そういった環境で推進力を生み出している。
旋回運動と漸進的な波の運動を実現したマイクロロボットは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校やオランダのトゥウェンテ大学、アメリカのハーバード大学などが最初に製作したが、そのマイクロ構造の繊毛や非対称の動きを作り出すむずかしさから、その後は開発が進んでいなかった。
樹脂に金属をコーティング
それをChoi教授らの研究チームは、光硬化性ポリマーの素材を3Dレーザープロセッサーによって成形し、ニッケルとチタンの正確なコーティングを施すことで、繊毛ロボットを作り出す技術を開発した。下の画像のaがゾウリムシのイメージ画像。bが繊毛ロボットのデザイン。cは製造プロセス。dとeも繊毛ロボットのイメージ画像だ。

そして、この磁力で非対称に動くマイクロロボットは、磁石の吸引によって動く既存のマイクロロボットと比べて、スピードでも推進効率でも優れている。この長さ220マイクロメートル、高さ60マイクロメートルのロボットの最大移動速度は秒速340マイクロメートル。磁石の吸引で動く既存のマイクロロボットの8.6から25.8倍の速さだという。

上の画像のaは、直線的な動きのキャプチャー。bは旋回的な動きのキャプチャー。cは軌跡で文字を描いたもののキャプチャーだ。
さらに、自由に動く方向を変えることができ、直径80マイクロメーターの場所まで動いていくことができる。従来のロボットより多量の薬剤や細胞を運ぶ能力も持っている。
Choi教授は、「正確な3D製造技術と、磁力によるコントロール技術で、私たちのチームは、これまでになかったような、繊毛の非対称な往復運動をまねたロボットを開発しました。私たちは、今後もこのロボットが人間の体内でより効率よく動き、働くことができるように研究し、実験をつづけます。その目的は、このロボットを、外から身体を傷つけない手術や、薬剤や細胞の運搬に使えるようにすることです」といっている。
こういったマイクロロボットが体内に入ることができれば、患部にピンポイントで薬剤を届けるなどの治療が可能になる。副作用を減らして、効率のいい治療が期待できるだろう。現在、遺伝子治療やナノ技術、マイクロ技術の進化によって、医療は急速に進歩している。このマイクロロボットも、いずれは一般的な治療法のひとつとして使われるようになるかもしれない。
【参考・画像】
【動画】