
革新的な音楽表現とビジュアルテクノロジーを融合した、先駆け的ロックバンドといえば?
そう問われて、クイーン(Queen)を挙げるひとも多いだろう。
そのイメージを最も強烈に印象づけたのが、1975年にリリースされた『ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)』。その伝説的名作を3D・360度のVR(バーチャル・リアリティ)で楽しめるのが、Google Playのアプリ『The Bohemian Rhapsody Experience』だ。
Googleとクイーン、さらにVRのパイオニアであるEnosisがコラボし、VRの新たな地平線を見せてくれている。
VRの原体験としての『ボヘミアン・ラプソディ』
映画『スーイサイド・スクワット』をはじめ、現在もさまざまなメディアやシーンで起用され、日本でも多くの老若男女がご存じであろう『ボヘミアン・ラプソディ』。
重厚なコーラスとギターパートをダビングしまくったギター・オーケストレーションに加えて、アカペラ~バラード~オペラ~ハードロックと変化する展開が特徴的だが、さらに圧巻なのがオリジナルのPV(プロモーション・ビデオ)だ。
特に、曲の中間部でメンバー4人が暗闇に浮かび上がってコーラスをする部分(いわゆる、オペラパート)は、音楽に合わせた視覚効果が施されていて、幻想的な世界に引き込まれていく。
この曲を作詞作曲したフレディ・マーキュリーの斬新なアイデアが盛り込まれたこのPVは、ある意味、クイーン世界をVR体験できるものだといえる。

最新VR技術でクイーン独自の世界観を再構築
『The Bohemian Rhapsody Experience』では、最新のVR技術を駆使し、インタラクティブなアクションと空間的広がりのあるサラウンドサウンド、さらにドルビーラボラトリーズ社との協働による没入型オーディオ技術を通じて、フレディの脳内世界を自由に旅することができる。
また、フレディの潜在意識にトリップできるだけなく、クイーンのステージ上に、しかもフレディと同じフロントポジションに立つ感覚も味わえる。
さらに、360度全方位に視線を動かすことで、随所に現れるクイーン作品にまつわるモチーフを探す楽しみもある。(すでにバンドから脱けているベースのジョン・ディーコンの存在を見つける喜びもあり!)
2Dアニメと3Dアニメ、モーションキャプチャー、さまざまな視覚効果などが融合された超現実世界は、抒情的でメランコリック、そしてゴージャスでダイナミックな同曲に新たな息吹をもたらすだけでなく、VRの表現と技術の可能性を大きく広げたといえるだろう。
クイーンのギタリストで、VRカードボード『The OWL Stereoscopic Viewer』をデザインするなど、自らを「VRの革新者」と称するブライアン・メイも、「このミュージッククリップは、史上初のVRアート作品として草分け的存在になるだろう」と語っている。

CEATEC2016でも各社がアピール
音楽やアートの世界のみならず、モバイルが広く普及している現代社会のあらゆる分野において、同アプリのような「自分が実体験しているように、インタラクティブなモバイルVR体験できる」というテクノロジーは今後ますます進化していくはずだ。
実際に、この『The Bohemian Rhapsody Experience』を実現させている技術の数々は、CEATEC JAPAN 2016でも、各社がアピールしていた最新技術と共通している。
たとえば、同アプリ内で幻想的なダンサーの動きを再現するために使用されているモーションキャプチャーに関しては、村田製作所が『ワイヤレスモーションキャプチャシステム』のデモを展開していた。
デモには、女性ゴルファーが登場。体に8つのセンサープローブを貼り、無線でデータを転送し、360度の動作を検知&記録して、ゴルフスウィングを手軽かつ確実にチェックできるというものだった。

各ワイヤレスセンサプローブは2.5cm四方&3.3gの薄型ウェアラブルセンサで、加速度センサーとジャイロセンサーで人体の状態を検知。低消費電力のブルートゥースでのデータ送信を採用しているという。
小型軽量なセンサーを実現することで、人体に装着する負担を軽減。日常的なエクササイズや身体状態のチェックといったヘルスケア向けの利用をはじめ、遠隔での医療や福祉分野での活用なども視野に入れたトータルシステムを提言している。
エンタメだけでなく、多様な分野でのVR応用に期待
VRに関しても多くの企業がテーマに掲げていたが、なかでも注目を集めていたのがタイコ エレクトロニクス ジャパンの『TE VRハンググライダー』。
VRヘッドマウントディスプレイを装着してステージ上に吊り下げられたハンググライダーに搭乗して、実際に飛行している感覚を味わう体験デモを行っていた。
同社はコネクタなど接続技術の世界的リーディングカンパニーだが、このようないわゆる周辺技術の企業が大々的にVRの有用性や楽しさを提示しているという事実こそが、VR関連技術の今後の展開に対する期待感や重要性を物語っていると感じさせられる。
さらに、ヘッドマウントディスプレイを着用せずに6K相当のモニタで人体浮遊を体験できる『フェアリーバタフライ』(フォーラムエイト)や、脈波から個人の集中状態をリアルタイムで判定・算定する集中力解析システム「Z.O.N.E.(β)」を用いたVRシューティングゲーム(ローム)など、多くのVR関連技術に対する企業側の開発意欲とフェア訪問者の関心の高さが伺えた
また、VRとの連動による新たな技術革新が期待される触覚技術(ハプティック)分野では、慶應義塾大学 ハプティクス研究センターが『身体力触覚を移植するハプティック人工手』を展示。リアルハプティクス(RH)技術を義手に採り入れることで、医療・福祉分野での活用を提起していた。
現実と非現実の幸せなマリアージュ
Is this the real life?
「これは現実なの?」という歌い出しで始まる、『ボヘミアン・ラプソディ』。
VR元年といわれ、フレディ・マーキュリー生誕70年にもあたる2016年において、まさに示唆的ともいえる楽曲かもしれない。
この節目の年を皮切りに、エンターテインメントにとどまらず、さまざまな分野でVR技術が人々の現実社会や日常生活に寄与する進化を遂げていくのが楽しみだ。
PlayStationVRも発売され、ますますVR熱が高まりを見せそうな2016年。この節目の年を皮切りに、エンターテインメントにとどまらず、さまざまな分野でVR技術が人々の現実社会や日常生活に寄与する進化を遂げていくのが楽しみだ。
【参考】
※ Behind the Scenes: The Bohemian Rhapsody Experience – YouTube
※ Google Play Bohemian Rhapsody
※ The Bohemian Rhapsody Experience – Enosis VR
※ Queen – Bohemian Rhapsody (Official Video) – YouTube