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深刻な温室効果ガスである「牛のゲップ」が、海藻サプリメントで減らせる!?

聞いたことがあるひともいると思うが、牛のゲップはけっこう深刻な温室効果ガスらしい。というのは、牛や羊のゲップにはメタンが含まれているのだが、メタンは二酸化炭素の28倍も強力な温室効果ガスだそうだ。そして、牛が出すメタン(その90%がゲップ、10%がオナラだという)は、人間が出している温室効果ガスの5%に相当し、オーストラリアが出す温室効果ガスの5倍にもなっているという。

その牛が出すメタンを大幅に減らすことができる手法が発見された。海藻を食べさせるというのだ。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のウェブサイトで紹介されている。

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source:https://blog.csiro.au/seaweed-hold-key-cutting-methane-emissions-cow-burps/

 

海辺の牛は健康的

カナダで畜産業を営むJoe Dorgan氏は、もう11年も前に、海辺の牧草地で飼っている牛のほうが、ほかの場所で飼っている牛よりも生産力が高いと気づいていた。海辺で飼っている牛は、打ち上げられた海藻を食べていた。そして、カナダの研究者であるRob Kinley氏とAlan Fredeen氏は、海藻が牛の健康や成長にいいだけでなく、牛が出すメタンを20%も減らすことを発見した。

Kinley氏はその後CSIROに移籍して、ジェームズ・クック大学の海藻の専門研究者も含めた研究チームを組み、さまざまな海藻で実験を行った。

試験管を使って牛の胃から出るメタン削減の実験を行い、20種類もの海藻を試した結果、効果のなかったものもあれば50%も減らしたものもあった。ただし、そのためには大量の海藻が必要で、実際の動物に食べさせたら消化の問題を起こしてしまいそうだった。

しかし、クイーンズランド沿岸で採取したある海藻を試したとき、研究者たちは機械の故障かと思うような結果を得たという。そのAsparagopsis taxiformisという海藻は、実験室においてメタン発生の99%以上を削減したのだ。しかも、ほかの海藻が、量を減らすと効果がすぐになくなってしまうのに対し、この海藻はかなりの少量でも効果を発揮することがわかった。

 

牛のゲップはエネルギーの浪費

このAsparagopsisという海藻は、ブロモフォルム(CHBr₃)と呼ばれる化合物を生み出す。その化合物は、ビタミンB12と一緒に反応することで、メタンの発生を抑える働きをする。内臓の中の細菌が消化をしてメタンガスを出す際に利用する酵素を破壊してしまうのだ。

家畜が出すメタンガスは、単なる環境問題ではない。家畜のゲップは、本来動物が生育に使うはずのエネルギーの浪費でもあるのだ。じつは飼料代の約15%は、メタンガスとなって排出されてしまっているという。畜産家にとって、これは小さな問題ではない。

もし畜産家が海藻を使って飼料を補うことができれば、ふたつの大きなメリットがある。環境問題への対処と限られた飼料を使って生産量を増やすことだ。CSIROとジェームズ・クッック大学は、MLA(Meat and Livestock Australia)からの資金を得て、海藻の家畜への影響に関してさらなる研究を進めている。

また、海藻の生産は世界的にも盛んになっているという。いっぽうオーストラリアの肉牛や乳牛の餌の10%をまかなうには、約30万トンの海藻が必要であり、世界的な規模にまでスケールアップしようと思うと、何百万トンもの海藻が必要になる。

今後の研究しだいでこの量は減らせるかもしれないが、たとえそれが半分程度になったとしても、6000ヘクタール程度の海藻農場が必要になるという。しかし、漁業が廃れてきた発展途上国で新たな家畜の飼育が可能になるなどのメリットも生じる可能性がある。

 

家畜の飼料として海藻が必須の存在になり、それによって温室効果ガスの削減に寄与する時代がくるかもしれない。同時に食肉の価格が下がり、さらにおいしくなってくれれば大歓迎だ。

【参考・画像】

Seaweed could hold the key to cutting methane emissions from cow burps -CSIRO