ネコノロジー。
それは、「ネコにまつわるテクノロジー」のことで、ある。
空前のネコブームによって、「ネコノミクス」による経済効果が大きな話題になるなか、ネコにまつわるテクノロジーも進化を遂げている。
ネコの特性と技術を融合させた製品が数々登場しているが、まるで“ネコ用ロケット”のようなフォルムを持つ「キャットロボット Open Air」は、出色のオーラを放つ。
ガジェット好きの物欲もくすぐる同製品について、日本での輸入販売元企業の代表であり、自らも開発者である若林昇氏に、開発秘話などをうかがった。
フォード・モーターのチーフデザイナーが開発
――非常に近未来的な製品ですが、どのような経緯で開発されたのですか?
開発者はBrad Baxter氏で、元々はフォード・モーターでチーフデザイナーをしていました。ネコ好きだった彼が、従来の自動ネコトイレに代わる斬新なアイデアを思いつき、Automated Pet Product社を独立起業してキャットロボットの開発をスタートしました。
そして、9年間の試行錯誤の末に、彼が開発に成功したのが『Open Air』です。
――従来の自動トイレとのちがいは?
従来型の自動ネコトイレは、掃除用の“櫛”が水平に移動する機構を用いたものがほとんどで、どうしてもネコ砂や排泄物が櫛に付着してしまい、それが故障の原因になっていました。
Open Airでは、ドームを回転させることで、重力と内蔵メッシュボードを利用して固まった排泄物を砂から分離します。また、砂床に付いた排泄物はラバーシートで自動的に剥がれるため、従来の故障原因を排除できる構造になっています。
――完全に自動制御で動くのですか?
そうです。ネコがOpen Airから出てくると、センサーが作動してドームが自動回転し、本体下のトレイに排泄物を収納します。この一つのサイクルが終了すれば、すぐに連続してトイレを使用できます。
また、ネコ砂が固まる時間に応じて、猫の退出から回転開始までの時間を「3分後」「7分後」「15分後」と選択できます。トレイがいっぱいになると自動通知しますので、人間はトレイをキレイにするだけで済みます。
ネコの心理や習性などを徹底研究
――ネコにとってのメリットは何ですか?
Open Airは、すべて、ネコの心理や習性の研究結果に基づいてつくられています。
たとえば、ネコは常に清潔な砂床でトイレを使いたいという習性があります。また、基本的に暗くて狭い空間が好きです。そこで、汚れにくいだけでなく、ネコが庫内に入りやすい形状も両立させるなど、猫の生態や気持ちを十分に配慮したコンセプトデザインになっています。
また、モーターによるノイズを大幅低減する構造を採用していますから、ネコにも人間にも優しいことも特徴です。
外出中でもネコと遊べる製品も
――ネコが快適に生活しやすい環境はもちろん、人間にとってもストレスフリーな環境をつくり出すことで、幸せな共存状態を実現しているわけですね。
ところで、近年、I0Tが進化して、ネコと人間の直接的コミュニケーションにとどまらず、「いつも一緒!」と常に身近に感じることができるテクノロジーも発展しているとのことですが?
そうですね、外出中でも家にいるネコの様子を見ることができて、さらに一緒に遊べるようなテクノロジー製品も誕生しています。
たとえばネコなどペットのためにつくられた多機能留守番カメラ『Pawbo(パウボ)』という製品は、専用アプリと自宅のWi-Fi環境を使って、外出先からでもスマートフォンやタブレットでネコの様子を見守ることができます。また、カメラ機能や動画撮影機能も備えています。
――一方的にモニタリングしているだけでは、ますます会いたくなってしまいそうです(笑)。
そんなときには、Pawobo本体に内蔵したレーザーポインターを、手動、もしくは自動で操作して、ネコと一緒に遊ぶこともできます。
また、ボタンを押せばPawbo内にストックしているおやつをあげることもできますし、自分の声をPawboから出したり、Pawbo本体からネコの声を聞いたりできる音声機能もついています。
ネコ向け開発ならではの苦難と喜び
――なるほど、それならば、留守番をしているネコは退屈しませんし、飼い主も常に一緒にいる感覚を味わえますね。このような技術の進化はネコと飼い主にとってはとてもうれしいことですが、開発者にとって大変なことは何ですか?
ネコの特性や行動については、最近になってわかってきたことも多く、従来のネコ用製品の開発における常識や方向性に修正を加える必要が生じるケースもあります。
また、人間の家庭で暮らしたときに初めて見せる行動などもありますから、生態学と先端技術を融合し、さらに社会にマッチした商品を開発していくことが大切だと感じています。
――逆に、開発者として面白いのはどんな部分ですか?
ネコは非常に神経質ですから、商品開発において細やかな工夫が求められます。それがたとえどんなに小さなパーツの変化だったとしても、ネコたちの行動にこれまでにはなかった良い変化が現れたときは、何ものにも代えがたい喜びや面白さを感じますね。
ネコ&テクノロジーが人間のストレス社会を変える
――ネコノロジーが進化すると、社会にどのような影響をもたすのでしょうか?
高齢化や非婚化などによって単身世帯が増えている現在、孤独感を補うためにペットを飼う人はさらに増加するのではないかと思います。特に世話がしやすいネコを飼うひとは、今後ますます増えていくでしょう。
その際、特に自宅外で働きながらネコと暮らす方にとって、トイレなどの環境を清潔に保つことは大きな問題となります。完全自動トイレが普及していけば、ネコを飼いたい、ネコに癒されたいというひとがさらに増えて、社会全体のストレス軽減につながるかもしれません。
――いわゆる、ペットの癒し効果が、現代のストレス社会の突破口になる可能性もあるというわけですね。
そうです。ネコたちペットが人間社会により近づき、生活のなかに入り込むだけでも、ヒューマン・アニマル・ボンド(Human Animal Bond/人と動物の絆)に関わるさまざまな効果が期待できるはずです。
さらに、野良ネコや地域ネコといったホームレスキャットに関する社会問題の解決など、社会貢献や、動物と人間の良好な関係の維持などにも寄与できると考えています。
――今後、ネコをはじめとするペットと人間の関係は変化していくのでしょうか?
人間自身とペット自身が急激に大きな進化をすることはないと思いますが、人間とペットの関係というものは、これからもまだまだ進化していくと思われます。その進化を促すのはペット用品やその関連技術であり、それらの製品・技術が進化していけば、動物と人間の両者にとってより良い社会が生まれているのではないかと期待しています。
人間の成長にも応用できる幸せなテクノロジーを
――個人的には、ネコの言葉や気持ちがわかる技術が誕生&発展すれば、どんなに豊かで、癒しに満ちた社会になるか!と期待してしまいます。
ネコ向けの製品・技術が進化していく先には、ネコたちと人間がともに暮らす“理想の社会”があるはずです。また、猫に関する行動学や生理学がさらに発達していけば、ネコへの人間の接し方やネコの住環境の理想形も変わっていくかもしれません。
ネコと人間には生態学上のちがいなどはもちろんありますが、もしかしたら将来的には、ネコ向けの製品や技術が乳幼児期の人間の子どもを育てるために応用できる可能性も考えられます。
そのような可能性も含めて、私たちはネコやペット向けの製品・技術に携わっていきたいと思っています。
――ネコにも人間にも役立つ、幸せなテクノロジーが生まれるかもしれないのですね。
「ネコたちペットが家族の一員になる社会がさらに進み、ネコに関する開発や技術、商品が人間生活にとっても必需品になる」。そのような社会をつくるために、今後も開発に情熱を、そして猫たちペットに愛情を注いでいきたいと思います。
【取材協力】
若林昇●東京理科大学理工学部卒。株式会社オーエフティー 代表取締役。石油プラントなどの設計、機械の輸入商社を経て、42才で独立し株式会社オーエフティーを設立。欧米のペット用品の国際展示会を頻繁に訪問し、ペット用品の輸入や自社開発を手掛ける。