彼は浮足立っていた。
そう、ずっと口説き続けていた女の子を、ついに自宅に連れ込んでいるのだ。
照明を暗く落とし、テーブルの上には『ドン ペリニヨン』のロゼが2つ。BGMは、フランス老舗スピーカー『Elipson』から流れるノラ・ジョーンズのスイートボイス。完璧だ。そして、最高の映画を鑑賞し終え、雰囲気は最高潮。まさに計画通りだ。
2時間前、彼はスマホを操作していた
計画通り。そうだ。そうなのだ。
予約していたフレンチビストロで上質かつ洗練されたガストロノミーを堪能し、彼と彼女の食欲は満たされ、高級なワインでほろ酔いになっていた。
しかし本番はここからだ。彼は道すがらスマートフォンを取り出した。
彼の自宅の照明は最新型のLEDライト『Phillips Hue』なのだ。LEDライトとブリッジがWi-Fi接続され、室内にいても外出先からでも、明るさや色味をコントロールできるすぐれものだ。
「よし、接続。設定を……」
はやる気持ちを抑え、彼はあくまで冷静にアプリを操作する。ここでしくじってはいけない。
「暗めにセッティング、と」
これでム〜ディ〜な色味、そして絶妙な暗さの部屋のできあがり。このムードを壊さず、まったりしてやるぞ。エイエイオー!
そしてすべては彼の計画通りに…
映画を観終わると照明はさらに暗くなっている。
これも彼の計画通り。タイマーで徐々に暗くなっていくように設定していたのだ。
もう少しで……
アッーーー!!
(ウオーーーーーーーー!!!!!!!)
膨れ上がったテンションに身を任せ、さあ、壁ド

「ンっ?」
「キャッ! 停電?」
一瞬の暗闇の後、突然、照明がチカチカビカビカ点滅しはじめた。
「な、なんだっ!?」
策士、策に溺れた!の巻
「そんなはずは……」
「やっべー!!!」
「ちょ、上司から連絡!」
「ごめん!ちょっと待ってて!ほんとごめん!」
慌てふためきながらベランダに出ていく彼の背中は、とても先ほどまでと同一人物とは思えない。雰囲気抜群だった照明も明るくなってしまい、ロマンスの予感などウソだったかのよう。
「あ、もしもし……すいません……」
「映画観る前に通知切っておかなかったせいだ……」
上司からの連絡に対して照明が1度点滅するように設定していたのが、あだになってしまったのだ。上司からの連続スタンプで点滅しっぱなし……。
こんなはずじゃなかったのに…。そんな後悔が脳内を渦巻き、そのそばから大激怒した上司の罵倒が右耳から左耳へと嵐のようにすべてをなぎ倒して通り過ぎていく。今日のデートのことばかり考えていたら、とんでもない仕事のミスをやらかしてしまっていたらしい……。
そして、30分後
「ごめん!待たせちゃって本当ごめん!」
……。
……。
「いねえ……」
……。
「ウワアアアアアアアアアァァァァァァア!!!!」
注:この物語はフィクションです。こんな失敗をする阿呆は実在しません。“Philips Hueですべての部屋の照明をコントロールし、あなたの帰宅を照明が点いた明るい家でお迎えできます。完全に照明を自動化し、外出中も家にいるように見せることができます。ジオフェンス機能によって家に近づくと照明が自動的に点灯し、家から離れると自動的に消灯することもできます。すべては生活をシンプルにし賢く便利な方法で心の安らぎを得るためです”
そう、設定さえ間違えなければ。
【参考】
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