
クラウドファンディングは非常に便利なものだ。
もし130年前にクラウドファンディングが存在したら、二宮忠八はライト兄弟よりも早く飛行機を開発していたに違いない。「日の目を見ない珍発想」が『Indiegogo』や『Kickstarter』によって具現化される事例が今も相次いでいる。
それは確かにいいことだ。だが、「ユーザーから巨額を募る」ことが理想の達成に直結するかと言えば、決してそうではない。
何十万ドルという金を頂戴し、製品を開発してそれを市場に投入したらプロジェクトは大成功……というわけではない。その製品が、果たしてユーザーを満足させているのか否かを知る義務が開発者にある。
そういうことを理解していないと、待っているのは悲惨な光景ばかりだ。
リアルなFPSを
『Takedown:Red Sabre』(以下Takedown)というゲームがある。
これはそもそも、クラウドファンディングサイト『Kickstarter』から登場したものだ。
開発者曰く、「戦場が舞台のFPSなのに体力が自動回復するのはおかしい。映画チックな演出も必要ない」とのこと。それ自体におかしなところはない。ハリウッド映画のようなアクションのせいで、「物音を立てたら敵に見つかる」といった基本的な要素がゲーム業界では疎かにされているからだ。
つまりTakedownが目指すのは「頭脳を駆使したリアルなゲーム」である。Kickstarterでは、22万ドル(約2,500万円)もの資金を調達した。
極力敵に姿を見せない、物音を立てない、高い場所から飛び降りたら死ぬ。これらの「当然」を詰め込み、本物の戦場のようなゲームができるはずだった。
蓋を開けてみれば…
Takedownは、日本のゲームマニアの間では「赤サブレ」と呼ばれている。
2014年のFPS界隈は、この赤サブレで大いに盛り上がった。素晴らしいゲームが登場したから、ではない。Takedownはあまりに出来の悪い作品だったからだ。
敵に姿を露出しながら歩いたり、物音を立てたりしたら攻撃されるという点は確かに表現されていた。だがだからといって、700mも先から頭部を狙撃されるという超辛口仕様はさすがにやり過ぎである。敵が音もなくこちらに忍び寄り、たった1発でカタをつけてくるという展開もザラだ。
にもかかわらず、味方NPCが何の援護もしてくれない。自ら高所から飛び降り次々に死んでいくという光景も繰り広げられる。だから自力で戦局を打開しなければならないのだが、このゲームにはマッピング機能が搭載されていない。広い建物内で「自分がどこにいるか分からない」という、特殊部隊員にあるまじきことが発生するのだ。
完全なるクソゲーである。
「金返せ!」の嵐
Takedownの開発者に対して、ユーザーから猛烈な返金運動が起こった。
敵と味方を区別する表示が一切ないから、ゲーム内で同士討ちが頻発する。そのような仕様に対する批判に「これはゲームの現実性を高めるために敢えて施したことだ」と開発者は主張し続けた。
平たく言えば、「ゲームの現実性」というのは手抜きの口実だったということだ。巨額の資金を一般ユーザーから受け取ったにもかかわらず、リリース後の仕様修正などにも消極的だった。
この「赤サブレ事件」は、クラウドファンディングの在り方について世に問う結果となった。プロジェクト成功のためのキャンペーンを展開し、資金を集めて製品を作ったらそれで「成功」なのか? 崇高な夢を掲げる開発者たちの脳内には、アフターケアという概念が欠如していた。
それはそうだろう。彼らにとってのプロジェクトのゴールは、「自分たちの夢の具現化」なのだから。
クラウドファンディングの「信用」
製品を提供する者である以上、目指すべきは「ユーザーが満足すること」である。
それをしなければ、ユーザーから「壮大な売り逃げ戦術」と非難されても仕方ないだろう。またこれは、クラウドファンディングそのものの信用にもかかわることだ。いくらアメリカ西海岸の住民が日本人より個人主義的だろうと、「クラウドファンディングに出てくる製品はリスクが大きい」というイメージはすでに定着しつつあるのではないか。
それはPayPalが購買者保護プログラムからクラウドファンディングを除外した措置を見ても、はっきり読み取れることだ。
我々ユーザーは、今一度「本物を見分ける目」を鍛えなければならないようだ。
【参考・動画】