クラウドファンディングサイトに『Air Umbrella』という製品があったことを、読者の皆様はご存知だろうか?
この製品は、日本のテクノロジー界隈でも非常に大きな話題となった。何しろこれは雨傘なのに傘の部分がなく、代わりに上方に向けた空気で雨を吹き飛ばすという斬新なアイディアだったからだ。
『Kickstarter』では、総勢825人のユーザーから10万ドル(約1,140万円)もの大金を集めることに成功した。2014年10月の話である。
ところが、このAir Umbrellaを巷で見かけることは今もない。一体どうなった?
プロトタイプはどこにある?
「2015年中までに『まったく新しい雨傘』を実用化させる。もしできなかったら、ユーザーに全額返金」
そう宣言してAir Umbrellaを発表したのは、中国のエンジニアチームである。彼らは北京大学、南京大学で航空宇宙学を専攻した秀才だ。
出荷までに相当な時間がかかることを前置き、その上で「プロトタイプはもうできている」と宣言。その強気な姿勢に、ユーザーからの期待が寄せられた。
だがそれと同時に、このような声があったことも事実だ。
「どうしてPR動画にプロトタイプの実証シーンが出てないんだ?」
確かに、動画に出てくるAir Umbrellaのプロトタイプと思わしき製品は、その性能を披露しているわけではない。室内で実験しているようではあるが、ユーザーが見たいのは野外での実験である。シャワーではなく本物の雨を弾き飛ばせるのか、という点だ。そもそも、動画の大半が少々出来の悪いCGと解説文で構成されている。
この製品は、本当に実在するのか?
「きっと」の不確実性

クラウドファンディングとは「きっと」の世界だ。
「きっと」という単語には、壮大な夢がある。「明日はいい日になるだろう」という甘い匂いが、「きっと」には含まれている。
しかし現実問題、「きっと」と「多分」に大差はない。不確定要素がそこにある、ということだ。極端に言えば、クラウドファンディングとは世界各地の「きっと」と主要先進国の通貨を交換している事業なのだ。
それが悪い、というわけではない。だがやはり、絶対に現実になり得ない「きっと」も多く混ざっていることは確かだ。
「未来の雨傘」の完成を信じて米ドルを投じたユーザーたちは、出荷を1年以上も待った。その末に拾った単語が「refund」だった。出資金はユーザーに返すから、PayPalのアカウントを教えてくれと発案者。記事にはとても書けないほどの罵声が上がったのは当然である。
花の開発、涙の量産
出資者すべてにリファンドされたのか否かは、じつはまだ定かではない。Kickstarter内のキャンペーンページのコメント欄には、今年に入っても「金返せ」と書かれている。これを信じれば、まだ全額返金されていないということなのか。
いずれにせよ言えるのは、優秀なエンジニアやデザイナーが必ずしも製品を完成させられるわけではないということだ。
製品の設計は、じつに夢溢れる楽しい作業である。しかしプロトタイプの製造から実証試験、工場での量産となると地味で苦しい道のりが待っている。「花の開発、涙の量産」と表現すべきだろうか。
だが、そうしたことが常識として浸透しない限り、第二のAir Umbrellaは必ず現れるはずだ。
【参考・動画】