IT/テック

テスラが「EV特許公開」その裏にある複雑な事情とは

「All Our Patents Are Belong To You」。

6月12日、テスラのイーロン・マスクCEOが同社サイトのブログで、そう書いた。

これを受けて、ロイター通信をはじめとする世界の有力メディアが、 「EV普及が急速に促進される」と報じた。

はたして、本当にそうなるのだろうか?

CIMG8443

そもそも「EVの特許」とは何か?

一般的に、EVは内燃機関(エンジン)を用いた自動車より構造が簡素で製造しやすい、と言われる。これは主に、パワートレインについての解釈だ。

自動車開発で最も資金と技術が必要な分野が、エンジンだ。 約130年前に生まれた自動車にとって、長きに渡り「エンジンは王様」だった。自動車開発は、まずエンジンありき。そのエンジンに合わせた車体を造り、それからボディデザインを施す。 その先にインテリアを決める。

そうした流れが当たり前だった。

だが90年代後半から2000年代に入るあたりから、エンジン開発が事実上、「頭打ち」となった。高出力型より低燃費型が優先され、そのなかで様々な改良が生まれた。また「プリウス」を筆頭に、ハイブリッド車の開発が進んだ。

だが、ベンチャー企業にとって、ハイブリッド車を含めて、エンジンの開発は資金面と技術面でハードルが高いという状況は変わらなかった。

こうした「エンジンありき」の論理なしに自動車開発を可能としたのが、EVだ。

EVは、エンジンの代替として、電気モーター。エンジンで最も難しいとされる、各シリンダー内での燃焼の制御の代替として、インバーター。エネルギー源のガソリンの代替として、二次電池。 これら3つが、EV技術のキモである。

CIMG8397

テスラの特許とは何か?

こうしたEVの基本を再確認した上で、テスラがいう特許とはなにか?

電気モーターについては、基本設計、開発、そして製造を台湾の富田電機が行っている。筆者は同社を訪問し、創業者で社長の張金峰氏から、同社とテスラとの関係について詳しく聞いている。

インバーターについては、テスラの初期モデル「ロードスター」では、台湾の到茂電子の製品を購入していた。到茂電子の開発責任者とも会い、テスラとの関係を聞いている。なお、「モデルX」については、テスラは購入先を公開していない。

電池については、電池セルはパナソニック製の18650を使用。18650はそもそも、ソニーが開発した電池で、直径18mm×長さ65mmの円筒形。主要な用途は、パソコンの電池パック用で、その場合は3〜4本を1パックとしている。

これをテスラでは、数百本単位でモジュール化し、それの組み合わせによって容量の違ういくつかの電池パックとしている。この技術は元々、米EVベンチャーのACプロパルジョン社のものだ。

こうした各社の技術と特許を、テスラがどのような契約で「束ねている」かはこれまで、未公開だった。今回の「特許の公開」とは、こうした各社の「オリジナルな特許」とどのように紐づくのか?

この点が不明瞭だ。

CIMG8393

最も大きな要因は中国への配慮か?

今回の「EV特許の公開」。 そのキッカケは、中国でのEV施策にあると、筆者は見ている。

中国では2009年からEV、PHV(プラグインハイブリッド車)、そしてFCV(燃料電池車)の普及を目指す施策「十城千両」を始めた。計画数に未達成の都市が続出し、2012年春に同施策はいきなり中止された。

これが2014年後半から、再始動する。

このタイミングでテスラは、中国進出を決定。自動車メーカーが中国国内で完成車を製造販売する場合、日系メーカーでの過去の事例等では、技術情報の社外流出等が問題となってきた。こうした中国での特殊な事情を考慮すれば、早かれ遅かれ「EVの技術開示」は必然となる、とテスラ側が考えた可能性が高い。

今後、テスラの中国での動きを注視していきたい。