トヨタ自動車がセダンタイプの燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle, FCV)を日本市場向けに2014年度中、米国・欧州では2015年夏ごろ発売すると発表した。価格は700万円前後となる見込み。
これまでトヨタはハイブリッド、PHV(プラグイン・ハイブリッド)と次世代自動車の普及をリードしてきたが、世界にさきがけてFCVを一般発売することで、持続可能な社会の実現に向けて大きく飛躍したい考え。
次世代エネルギー「水素」
これまでの自動車の歴史においては、蒸気機関、電気、ガソリンやディーゼルといった内燃機関を使ったものが主流であった。ガソリン自動車はこの中で後発であったものの、その扱いやすさとガソリンの普及にともない、1886年にベンツが開発してから100年以上経過した今も主流となっている。
しかし自動車を取り巻く環境は日ごとに厳しさを増している。石油の安定的供給への不安、地球温暖化、大気汚染といった環境への悪影響が懸念される。特に世界的な経済成長と交通需要の増加、人口増加といったことから環境問題はさらに深刻化していくと予想される。
サステイナブル(持続可能)なモビリティ社会を実現するためには、省エネルギーはもちろん、燃料多様化への対応だけではなく、次世代エネルギーが必要である。トヨタは「水素」が将来の有力なエネルギーとして位置づけ、燃料電池車 FCVの開発に力を入れていた。
水素エネルギーは文明の歴史の中で200年以上も使われてきており、現在ではガソリンや天然ガスと同様に安全に取り扱うことができる燃料。特徴としては使用しても地球温暖化ガスと言われるCO2の排出がゼロ、天然ガスから分離できるほか、電気分解を使えば水から生成することも可能で容易に入手できる。電気に比べるとエネルギー密度が高く、貯蔵や輸送が容易といったメリットがある。
20年以上に及ぶFCV開発の歴史
このような水素の特徴に着目し、トヨタでは1992年からFCVの開発をスタート。2002年には日米で限定発売を開始し、100台以上のFCVが200万キロを走破した実績をもつ。特に航続距離が700kmと長く、水素の充填時間が3分間と短いことは一般的なガソリン車と比較しても優れた点である。
今回発売を予定している最新のトヨタFCVでは、燃料電池の出力密度を従来の2倍以上向上、出力は100kW以上でありつつ小型化を実現しシート下配置を可能とした。また高圧水素タンクはタンク質量あたりの水素貯蔵量を従来の20%増しとしつつ、タンク本数は半分の2本として性能向上と小型化を両立した。
その結果FCHVと比較して燃料電池システムコストは1/20以下とすることができている。またその他従来のハイブリッド車から適切なコンポーネントを利用することで、車両全体価格も当初予定していた1,000万円を大幅に切る700万円前後と、非常にリーズナブルなものとなった。
デザイン
米国で人気の高いセダンタイプ、流麗でエレガントな雰囲気をもつエクステリアデザインは、次世代車に相応しい仕上がりとなっている。
同時にトヨタ車のアイデンティティであるアイコンは各所にちりばめられ、特にフロントグリル、バンパーやリアバンパーはLFAを彷彿とさせるものである。
今回インテリアデザインは公開されておらず、今後詳細が発表される予定。
日本政府の取組
今回の発表会では経済産業省、資源エネルギー庁の省エネルギー・新エネルギー部燃料電池推進室の戸邉氏による「水素社会の実現に向けた取組の加速」の説明もあり、政府としても2040年頃にCO2フリー水素供給システムの確立に向けて取り組んでいくことを表明している。
FCV普及の課題
CO2排出がゼロ、航続距離がガソリン車と同等、水素充填時間が3分と短いことから究極なエコカーでありつつ、利便性が高い。一方でインフラ、水素ステーションの整備が今後の課題である。
この点、トヨタでは卵が先か、鶏が先かという問題と認識しており、インフラを整備してからでないとFCVは出せないとはしたくない、という思いから当初2015年登場予定であったFCVの計画を早め、この時期に登場させることとしたという。
ガソリンには多くの税が含まれている。現在のところ、燃料としての水素に対しての課税がどうなるのか、実際の燃料代はいくらになるのか。トヨタとしてはハイブリッド車と同等の燃料代になるであろうと予測しているが、現在のところ明言は避けている。
またハイブリッド車やEVの購入には補助金があり購買を促進しているが、いまのところFCV購入時の補助金については明らかになっていない。
水素ステーションの整備、税金を含めた法整備、補助金の有無などが今後FCV普及の鍵となりそうだ。