トヨタは、4月に発売したパッソ、ヴィッツに次世代エンジンを導入した。いよいよ小型車市場でも、世界最高レベルの熱効率を可能にしたエンジンで勝負に出てきたのだ。
2015年までに計14モデルへ導入するというこのエンジンは、アトキンソンサイクルというシステムを取り入れたものだが、このエンジンは既にプリウスなどのハイブリッド車では採用されていたものだ。
しかし熱効率の良さの反面、パワー不足が欠点とされていたため、それをモーターで補えるハイブリッド車だけで採用されていた。
しかしトヨタは、この問題を技術的に解決することに成功し、ガソリン車へ導入した。
この技術がさらにハイブリッド車にフィードバックされれば、なんと1リッター当たり40キロ台の燃費が射程圏に入るという。これは、2015年に全面改良を予定しているプリウスで実現されるかもしれない。
■130年前に考案されたアトキンソンサイクルとは
この最先端のエンジンに採用された、アトキンソンサイクルとは何か。
実はアトキンソンサイクル自体は、約130年前の1882年にイギリスのジェームズ・アトキンソンが提唱した内燃機関の仕組みで、ガソリンと空気の混合気の圧縮比よりも膨張比を大きくすることで熱効率を高めるという仕組みだ。
ただ、前述したように、出力が低下する欠点があったため実用化が難しかった。
そこでトヨタでは排気効率を高めたり、シリンダーの壁温を調整する新構造を開発したりするなどして、アトキンソンサイクルの欠点を克服し、従来のガソリンエンジンより高い熱効率を実現した。
例えば、この次世代エンジンを搭載したパッソでは、アイドリングストップ機能も併用することで、1リットル当たり27.6キロを達成し、ハイブリッド車と軽自動車を除けば国内トップの燃費を実現している。
■ガソリンエンジンの燃費競争
これまでトヨタは、燃費競争においてはハイブリッド車によって競合他社を引き離していた。しかし世界で販売されている車の7割がガソリン車であり、競合他社は低燃費の小型車で対抗してきた。
そこでトヨタはガソリン車の燃費向上の切り札としてアトキンソンサイクルのガソリン車への採用を技術的に実現したのだ。
しかしアトキンソンサイクルの採用はトヨタだけでは無い。ホンダやマツダも取り入れている。
トヨタ自動車・ユニット統括部のパワートレーン企画室主査である足立昌司氏は「ホンダさんに関しては排気系の作り、マツダさんに関しては直噴でないのが違い」とそれぞれトヨタとの違いを表現している。
■最先端の古い技術
今回、トヨタは約130年前に提唱されていた理論を、最先端の技術力で実現して見せたことで、古い技術にもイノベーションが潜んでいることを示してみせた。
このようなことは車だけの話に留まらない。例えば電波塔としては世界一の高さを誇る東京スカイツリーの耐震構造には、「心柱」と呼ばれる構造が採用されている。
この心柱は日本の伝統的な建築物の「五重塔」で採用されていた構造だ。五重塔は多く存在するが、最古のものは法隆寺の五重塔で奈良時代の建造とされている。
この五重塔は木造で有りながら、地震大国の日本で倒壊した記録がほとんど見られないという。その耐震性をもたらしているのが塔本体から独立した中空構造をもつ心柱だとされている。
東京スカイツリーでは、耐震性を持たせるために「心柱制振」という仕組みを採用した。
トヨタエンジンのほか、こんな身近なところにも、古い技術が最先端のノウハウに活かされた例を見ることができる。古い技術にこそ、イノベーションが潜んでいるかもしれないのだ。
*1枚目の画像:トヨタのもっと006|もっとよくしよう。