英オックスフォード大学は2014年7月に、「Nano-pixels」を発表した。これは従来の解像度の常識をはるかに超える高解像度のディスプレイ技術だという。
同大学のHarish Bhaskaran氏らの研究グループによれば、この従来のディスプレイの100倍以上も精細な描画を可能とする技術は、DVD-RAMの記録層などに使用されている相変化材料の薄膜を用いることで実現した。
同大学のニュースページに浮世絵や精細な昆虫の画像など、6枚のサンプル画像が掲載されているが、これらは人の髪の毛よりも細い対角70マイクロメートルのサイズで描かれたのだというから驚く。
低エネルギーで描画する技術
この驚くべき技術は、2層のインジウムスズ酸化物(ITO)を電極として、間に7nm(ナノメートル:10億分の1メートル)の厚さのゲルマニウム・アンチモン・テルル(GST)という相変化材料がサンドイッチされたフィルムを作ることで実現している。
その結果、1画素あたりが300×300nmという極小サイズで、カラー画素を作ることを可能にした。
サンドイッチされたGSTは、電流の流し方で、原子が入り乱れたアモルファスと呼ばれる状態と結晶の状態を、ナノ秒スケールという非常に短い時間で切り替え、色のバリエーションを作ることができる。
例えばこのGSTの性質は、DVD-RAMの記録層に応用されている。極細のレーザー光を照射することで、GSTの結晶膜を変化させて情報を書き込んでいるのだ。
また、Nano-pixelsのもう一つの特徴として、色が変化するピクセル以外はリフレッシュする必要がないため、継続的にリフレッシュしている現在の液晶ディスプレイよりも、低消費電力で動作させることができるということだ。
実用化への期待
Nano-pixelsを実用化するにはまだ、電流のかけ方をナノスケールでコントロールする技術が課題として残っている。
しかし実用化できれば、例えば最新のスマートフォンの一つの画素サイズが50μm(つまり50,000nm)だから、画素サイズが300nmのNano-pixelsでディスプレイを作れば、おおよそ160倍精細になる可能性がある。
また、Nano-pixelsは折り曲げも可能だから、スマートグラスや折りたたみ式のスクリーン、あるいはスマートコンタクトレンズなどにも応用が期待されている。
特に今後進化するであろうウェアラブルデバイスにとっては、ブレークスルーとなりそうだ。
*画像出典:‘Nano-pixels’ promise thin, flexible high-res displays、Scientists Create a New Type of Ultra-High-Res Flexible Display