航空機には垂直離着陸機能を兼ね備えた「VTOL」(Vertical Take-Off and Landing)と呼ばれる機種が存在する。
近年、その機能を応用した無人機「UAV」(Unmanned Aerial Vehicle)が様々な目的で開発されるようになった。
今回取り上げるベルギー「KU LEUVEN」の大学生が開発した機体もその一つ。
「VTOL」技術の歴史は英ハリアーから
「VTOL」の起源は1967年に英ホーカー・シドレーが世界で始めて実用化した「ハリアー」まで遡る。
同機は長らく英国空軍などで活躍後に退役、現在はロッキード社製のステルス機「F-35B ライトニングII」がその機能を引き継いでいる。
ジェットエンジンの噴射方向を離着陸時は真下へ、飛行時は後方へとと90°変化させることで「ホバリング」を可能にした滑走路要らずのハイテク機である。
さらに「VTOL」機能をローター(プロペラ)機で実用化したのが近頃ニュース等で何かと話題の通称「Osprey」こと、米国のベル社とボーイング社が共同開発した「V-22」。
共にヘリコプターの如く垂直方向の離着陸が可能で、しかも普段は通常の航空機と同様に高速で水平飛行する、言わば「良いとこ取り」の航空機。
ベルギーの大学生チームが開発したVTOL式搬送機
KU LEUVENの研究チームはそんな「VTOL」機能を「UAV」に付与、空中搬送システムの高速化に取組んでいる。
研究チームが「VertiKUL」と名付けた機体が飛行する様子がこちら。
4個のホバリング用プロペラを使って垂直上昇した後、機体姿勢を90°変化させて水平飛行に移行、翼の揚力を利用した高速飛行により、最大30km離れた目的地に物品を自動配送可能と言う(動画の1:46~1:56で機体が姿勢変化する様子が確認できる)。
機体の姿勢変化には4つのプロペラの差動推力を利用、内臓しているGPSを利用して目的地までの飛行や到着後の離着陸を自動化している。
Amazonのプライム・エア計画
一方、2013年末に通販大手の「Amazon」が公開した無人機「ドローン」による空輸便で発注から30分以内に顧客が待つ自宅へダイレクトに商品を届ける「Prime Air」計画が大きな話題になったのは記憶に新しいところ。
FAA(米連邦航空局)の飛行認可取得待ちとなっているようだが、Amazonは今秋にも規制が無いインドで一足先に商品の空中配達を計画している模様。
こうした「ドローン」は既に映画、スチル写真、スポーツイベント等の空撮用や気象観測、農業用等で活用されているが、多数の機体が空を飛び交う事になる「通販用」としての利用についてはクリアすべき課題が多いようだ。
現時点でAmazonはDJI社の「Phantom 2」などの各種ドローンをWeb通販で取り扱うに留めている。
近年の「空撮機」事情
ちなみにこの「ドローン」、一般用とは言え小型ムービーを搭載すれば振動の少ない滑らかな空撮が可能で、飛行中の下界の様子を手元のスマホの画面でリアルタイムに確認することが出来る。
もしうっかり電波が届かない所まで飛ばしてしまった場合でも機体に搭載されているGPSで出発地点へ自動で帰還する機能を装備している(連続飛行時間:約25分)。
「夢の有るホビー」の側面を併せ持つ反面、保有する性能を考えると、普及時はラジコン機同様の飛行時の安全確保だけでなく、プライバシー侵害に備えた対応が必要になるかもしれない。
また「ドローン」にはロッキード社が軍事用の偵察機として開発した「Indago VTOL Quad Rotor」などが存在している。
これら既存の 「ドローン」に比べて、KU LEUVENの大学研究チームが実用化を目指して開発中の「VertiKUL」はホバリング機能と翼による高速飛行を両立させていることから、技術で一歩先を行っていると言えそうだ。